VolumioはバージョンアップしてVolumio2になった
高レベルなオーディオ愛好家のみなさんの多くは、きっと高価なネットワークプレーヤーで音楽データを再生していることでしょう。いっぽう、わたし(小林)がヴィンテージ愛好家なせいか、訪問させていただくリスニングルームでは、アナログはEMT927か930が、デジタルは古いスチューダーなどのフィリップス系メカのCDプレーヤーが多いようです(2017年までの経験)。そういったベテランのみなさんから見れば、流行りのデジタル機器は安くてちっぽけで、雑誌の付録みたいに思えてしまうことでしょう。
でも、安い最新機器のなかには、とても優れた性能のものがあって、なかには測定が難しいほど低歪率なものもあります。豪華な高級機器は、価格を正当化するための複雑な回路や、能書き付きの大げさな部品に起因する大型化と、それらにともなう配線の延長などによって、かえって歪みが増し、音に色付けや僅かな濁りがある(それがブランドの音作り?)ばあいが少なくありません。デジタルでは、大きくて重いほうが良いとは限らないどころか、逆の場合もあるのです。
訪問先にあった小型デジタル機器の対極にある重厚なアナログプレーヤーEMT927
ご自分の装置の音質に気に入らない部分があって、それをデジタル再生機器などの色付けで中和しようというのなら個性的な高級機を使うのもありですが、わたしは愛用するヴィンテージスピーカーの音を台無しにするような濃い味付けの音作りは勘弁してもらいたいので、デジタル再生には「ヴォリューミオ(Volimio)」という無料のソフトを、安いミニパソコンにインストールしたものをメインにしています。バイオリニストの「グリュミオー」みたいに聞こえたので、「ヴォリューミオ」という名前はには良い印象をもっています(原語では「Volumio」と「Grumiaux」でぜんぜんちがいますね)。
パソコン(PC)オーディオに詳しい人たちにとって、Volumioは何年も前からメジャーでしたが、主にラズベリーパイ(RaspberryPi)というミニパソコンに基本ソフトごとインストールして使うので、ベテランのオーディオ愛好家にとっては敷居が高いようです。しかし、わたしの経験では、Volumioと気に入ったDAコンバーター(DAC)の組み合わせが、最も優れた音楽データ再生装置です。MACやWindowsなどの高性能パソコンや、数百万円もする有名メーカー製品と比較しても、音質も含めて総合的に上だと考えています。人には言えないほどのお金をかけてしまっている我ら筋金入りのオーディオ愛好家(あるいはオーディオ馬鹿)こそ、Volumioユーザーになるべきなのです。
ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、そういったわけで「オーディオ愛好家向けVolumioのインストールと活用方法」をご紹介します。あま多あるPCオーディオ的な解説ではなく、本格的なオーディオ愛好家向けの解説ですから、「やりすぎ」と思われてしまう部分があるかもしれませんが、気にすることはありません。なにしろ、ご自慢の再生装置のコストと比べればppmオーダーの価格にしかなりませんから、いますぐアマゾンなどでRaspberry Piを購入してスタートしましょう。
※大変申し訳ありませんが、この解説やその結果についての補償とサポートは一切ありません。パソコンが苦手な方は、友人やオーディオの弟子などに手伝いを依頼してください。
(2018年4月版)Volumio2のインストールと設定方法
まず、Raspberry Pi には種類がたくさんあるので、どれを買ったらよいか迷ってしまいますが、現時点では2018年3月に発売された最新の「Raspberry Pi 3B+」か、ひとつ前の「Raspberry Pi 3B」を購入すれば間違いありません。もっと旧型のRaspberry Piや下位モデルでも大抵は問題なく使えますが、本体は5千円程度と安い真空管くらいの価格ですから、新しいモデルを買うようにしましょう。
ラズベリーパイ(RaspberryPi) 3B と RSコンポーネンツ社の純正ケース
最近のRaspberry Piは無線LAN機能を内蔵しているので、電気通信事業法に基づく「技術基準適合認定」が必要です。日本国内で製造されたものを購入すれば付いているはずです。ちなみに、現在はオーディオ愛好家にとって馴染みの深いSONYが製造しています。ただし、今回ご説明する方法では無線を使いません。
Raspberry Pi本体はむき出しの小さな基板1枚だけなので、電源とケースを買う必要があります。ケースは安っぽいプラスチック製ばかりなので、とりあえず純正のケースにしておけば無難です。アマゾンを見てみると、純正ではなく「Official」と表記されていました。純正というのは、電子部品の大手通販業者である英国のRSコンポーネンツ社の製品ということです。Raspberry Pi は安価な教育用パソコンとして、2011年にRaspberry Pi財団によって開発され、2012年からRSコンポーネンツ社によって供給されてきました。
ラズベリーパイ(RaspberryPi) 3(B) 用の RS純正電源
そのほかに用意する必要があるものは、電源とマイクロSDカード、USBケーブル、LANケーブル、大容量ディスクです。オーディオ愛好家は電源に尋常でないこだわりがあって、いろいろと物色したくなるでしょうが、千数百円のRaspberry Pi用ACアダプタ型電源を購入すれば十分です。RS純正品はアマゾンにはなくて、同様なものが売られているようです。5 Vで2.5 A以上のものであれば、どちらでもいいと思います。RS純正品はRaspberry Pi本体やケースとともに、RSオンラインで購入できます。
■RSオンライン
https://jp.rs-online.com
マイクロSDカードは、どれでもVolumioが動作するとは限りません。無難な東芝の16G Class 10 UHS-1の安いカードがお薦めです。わたしは本業のシステム構築でRaspberry Piをよく使い、高い性能が求められるばあいは下記のトランセンド社のカードを使うことがありますが、Volumioにはそこまで必要ありません。
「Transcend High Endurance micro SDHC 16G Class 10 TS16GUSDHC10V」
オーディオ愛好家は何でもハイスペックで高価なものが良いと思いがちですが、32G以上のカードは相性が悪くてVolumioが動作しないものの割合が増えるうえ、今回ご説明する方法ではカードに音楽データを保存しませんから、大容量が無駄になってしまいます。かつて懐かしの「オーレックス」ブランドでオーディオに貢献し、いまは色々と大変な東芝のカードを使ってあげましょう。私のVolumioも写真のカードで快調に動作しています。
無難な東芝製16GマイクロSDカード(アダプター付き)
接続ケーブルもまた難物で、神仏に貢ぐがごとき散財をしてしまうオーディオ愛好家もいるほどですが、まずは家電量販店で売っているような普通のケーブルでスタートしましょう。Raspberry Piが軽いので、細めのケーブルがお薦めです。USBケーブルのRaspberry Pi側のコネクターはパソコンと同じタイプです。DAC側はお使いのDACに合わせてください。現在の多くのDACには、標準的なプリンターと同じタイプのコネクターが付いています。ですから、プリンター用のUSB2.0ケーブルを買えば大丈夫なことが多いと思います。
LANケーブルはCAT-5eかCAT-6のパソコン用ケーブルでOKです。USBケーブルもLANケーブルも、オーディオ用と称する高額品がありますが、5千円のRaspberry Piの基板内を流れて出てきた信号を、1本数万円もするケーブルに通すことにどんな意味があるのか、冷静に考えてからにしましょう。ケーブルと音質については、後の「(チーニング編)」でご説明します。そのときに、必要があれば買い替えるようにしてください。最初から特殊なものを使うと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。
マイクロSDカードのフォーマット
必要なものがそろったら、インストール作業を始めます。インストールにはデスクトップでもノートでも良いので、インターネットに接続した普通のWindowsパソコンを使います。MACでも出来ますが、ここでは説明しませんので、別の詳しい人に聞いてください。申し訳ありません。
パソコンにはSDカードを挿入するスロットが必要なので、無ければUSBカードリーダーなどを購入してください。また、パソコンには管理者権限のあるユーザーでログインしてください。その前提でご説明します。これまでに拝見させていただいたオーディオ愛好家のパソコンは、すべて管理者ユーザーでログインしておられましたので、大抵は大丈夫だと思います。
まずは専用アプリケーションによるマイクロSDカードのフォーマットからです。わたしを含む多くのRaspberry Piユーザーが使っているのは、SDカードのメーカー団体が配布している「SDメモリカードフォーマッター」で、ちょうどこの記事を書いている最中にバージョンアップされ、これまで2系統あったものがバージョン5で統合されたようです。早速試したところ、無事にVolumioがインストールできました。わたしのパソコンはWindows 7(プロ)を10にバージョンアップしたものです。
■SDメモリカードフォーマッター
https://www.sdcard.org/jp/downloads/
SDメモリーカードフォーマッターのダウンロードページ
上のページの下側にダウンロードボタンががありますので、スクロールしてWindows用をクリックすると、英語のユーザーライセンス同意事項がドバッと表示されます。(なんとなく)確認したら、「同意します」をクリックしてダウンロードしましょう。
「SD_CardFormatter0500SetupJP.exe」といった(0500のバージョン部分は変わります)ファイルのダウンロードが完了したら、(ダブルクリックして)実行します。すると、
このアプリがデバイスに変更を加えることを許可しますか?
SD Card Formatter Setup
確認済みの発行元: Tuxera Inc
といった警告が表示されますので、「はい」をクリックして進めてください。あとは通常のインストールと同じなので、デフォルトの指示通り「次へ(N)」をクリックして進めてください。メジャーなソフトはフィッシングに使われることが多いので、慌てて偽物をインストールしないように注意してください。ほかのアプリも同様です。
インストールが完了すると、「SDメモリカードフォーマッター」の起動が始まり、再び先ほどと同じ警告が表示されます。「はい」をクリックしてアプリが起動したら、インストール成功です。せっかく起動したアプリですが、ここでは×をクリックしてすぐに終了させます。このとき、SDカードを挿入するカードリーダーのスロットの状態によっては、起動後に固まってしまうことがあります。そのばあいは、辛抱強く×(閉じるバツ)をクリックするなどして強制終了し、念のためにパソコンを再起動しましょう。メモリカードの操作では、一般にパソコンが不安定になる傾向があります。
いよいよフォーマットです。マイクロSDカードをアダプターに挿入し、アダプターごとパソコンのカードスロットに挿入します。それ以外のカードやUSBメモリなどは、一切挿入しないようにしてください。もし、マイクロSDカード未挿入のアダプターだけを挿入すると、パソコンや「SDメモリカードフォーマッター」が固まることがありますので、やはり強制終了+再起動でやり直しましょう。フォーマットするマイクロSDカードのみが挿入されている状態で、デスクトップに出来ているはずの「SD Card Formatter」のショートカットをクリックして、再度「SDメモリカードフォーマッター」を起動します。
すると、フォーマットするマイクロSDカードが認識されているはずで、上のスクリーンショットの例では「H:」になっています。うっかりデジカメのカードをフォーマットするなど、ミスのないことを確認したら、「上書きフォーマット」を選択して「フォーマット」ボタンをクリックします。わたしのパソコンでは上書きフォーマットに10分ほどかかりましたが、カードの健全性確認になるのでそうしました。新品のマイクロSDカードなら、「クイックフォーマット」を選択してすぐに完了させても問題は起こらないでしょう。
「本当にフォーマットしてもよろしいですか?」という警告の「OK」をクリックしてしばらく待つと、「フォーマットが正常に終了しました。」といった表示が現われ、めでたくフォーマットが完了します。なお、ボリュームラベルは空欄のままで入力しません。Volumioのインストール時に消されてしまうからです。
■Volumioのインストール
Volumioのインストールには、SDカードやUSBメモリなどにディスクイメージという特殊なファイルを書き込むためのアプリをダウンロードして使います。CD-Rを焼くアプリと似たようなことをメモリに対して行なうアプリで、下に示す「Win32 Disk Imager」を使います。
■Win32 Disk Imager
https://ja.osdn.net/projects/sfnet_win32diskimager/
書き込みアプリ「Win32 Disk Imager」のダウンロード元の一例
ダウンロード元はいくつもありますが、レスポンスが良かったので、OSDNというダウンロードサイトを例にしました。ダウンロードページで「ダウンロードファイル一覧」というボタンをクリックすると、長いファイルリストが表示されますので、下に示すように末尾が「install.exe」になっているインストールファイルのうちで、もっとも数字が大きい最新版をダウンロードしてください。下の例では「win32diskimager-1.0.0-install.exe」になっています。
「Win32 Disk Imager」のダウンロードファイル一覧から最新のexeファイルを選択する
ダウンロードしたファイルをダブルクリックするなどして、インストールを開始します。まず、ライセンスの同意を求められますので、スクロールして「I accept the agreement」を選択して同意し、「Next」をクリックします。途中で表示される、「□Create a desktop」にチェックを入れて、デスクトップに起動用のショートカットを作ります。
「Win32 Disk Imager」のインストール開始時に表示されるライセンス同意
インストールが終わるころ、「この不明な発行元からのアプリがデバイスに変更を加えることを許可しますか?」という警告が表示されますので、「はい」をクリックしてください。「README.txt」という英語の説明とともに「win32diskimager」が起動し、インストールが完了しますが、ここではやはり両方とも×をクリックして閉じてください。
「Win32 Disk Imager」のインストールが完了した状態のスクリーンショット
ようやくVolumioのダウンロードです。下のダウンロードサイトにアクセスすると、そのまた下のスクリーンショットのようにRASPBERRY PIがデフォルトで選択されているはずですが、念のため確認してから「DOWNLOAD」をクリックしましょう。執筆時点では「volumio-2.389-2018-03-26-pi.img」というバージョンのファイルでした。「.img」という拡張子のファイルは、ハードディスクやDVDなどのディスク全体を、ファイルだけでなくファイルを管理するための情報も含めて一つのファイルにしたもので、ディスクイメージと呼びます。
■Volumio
https://volumio.org/get-started/
Windowsは基本ソフトとかOS(Operating System =オペレーティングシステム)などと呼ばれ、色々なアプリを動作させる環境を作っています。VolumioはLinuxという基本ソフトと、その環境上で動作するVolumioのアプリが一体となったもので、パソコンのドライブC:内の全情報に相当するディスクイメージとして提供されています。これをマイクロSDカードに書き込んで、RaspberryPiなどで起動するという仕組みなのです。
いま、パソコンのカードリーダーのスロットには、フォーマットしたままのアダプター付きマイクロSDカードが挿入されているはずです。念のため、それをアダプターごと外します。その際、タスクバーから「ハードウェアを安全に取り外してメディアを取り出す」といった表示が出るアイコンをクリックしてドライブを選択し、「○○はコンピューターから安全に取り外すことができます」のような表示が出てから抜いてください。
「win32diskimager」でVolumioを起動するディスクイメージを書き込む
再びマイクロSDカードをアダプターごと挿入し、利用可能な状態になるのを待ちます。もちろん、Volumioのダウンロード完了も待たなければなりません。それから、デスクトップにあるはずの「win32diskimager」のショートカットをダブルクリックし、警告に「はい」をクリックして起動します。立ち上がったら、上のようにフォルダのアイコンをクリックしてダウンロードしたVolumioのディスクイメージを選択し、書き込み先「Device」が正しいマイクロSDカードを示していることを確認してから、「Write」ボタンをクリックします。
英語で「Writing to a physical ・・・(以下省略)」といった警告が出ます。これはカード内の全データが消えるということですので、「Yes」をクリックしてしばらく待ちます。下のような書き込み成功の表示が出たら、めでたく終了です。ご苦労様でした。
「win32diskimager」によるVolumioの書き込み成功でインストールが完了!
Volumioの動作や使い方などについては、次回の(動作設定編)でご説明しますが、すぐに確認したいでしょうから、ごく簡単に書いておきます。もうパソコンではマイクロSDカードを認識できませんから、そのまま引き抜いてRaspberry Piに挿入します。LANケーブルと電源を接続してから最後にコンセントに挿し、数分間待ちましょう。Raspberry Piに電源スイッチはありませんから、電源を接続して起動、抜いて停止です。DHCPサーバーというものがあることが前提ですが、パソコンでホームページ閲覧アプリを起動してアドレスバーに、
http://volumio
と入力し、Volumioのページが表示されたら成功です。
動作設定編では、使い方だけでなく、「なぜ、手軽なI2C DACを使わないか」といった手軽な話題を通じて、デジタルオーディオの本質についても考察する予定です。