乱聴録【其ノ一】アルニコのオイロダイン KL-L439 EURODYN

(2007年10月28日)

試聴時のオイロダインの様子(中央にはKL-L501が2本)
試聴時のオイロダインの様子(中央にはKL-L501が2本)

長いまえおきが終わって、ようやく最初のラッパの試聴である。その記念すべき第一号には、一番有名なオイロダインに登場してもらい、この乱聴録の評価がどの程度参考になり得るのか、あるいは乱調で無意味なものなのかを判断していただくことにする。オイロダインといってもいろいろとあるが、登場するのはクラングフィルム製のアルニコのオイロダイン KL-L439 である。試聴は上の写真のように、KL-L501と兼用の仮設の平面バッフルで行った。バッフルの実質的なサイズは幅が 2.5 m、高さが 1.5 m であった。このオイロダインには音響レンズが付いているが、少し前まで音響レンズの無いオイロダインを、もう少しまともなバッフルに取り付けてメイン・スピーカーとして愛聴していたので、音響レンズの有無によるちがいにも触れることにする。

クラングフィルム(Klangfilm)は英語風ならサウンドフィルムという名前の会社で、1928年にトーキー映画システムの開発と販売を目的として、SIEMENS & HALSKE と AEG(Allgemeine Elektrizitaets-Gesellschaft)によって共同設立された。ウェスタン・エレクトリックの事業が電話をはじめとして数多くあったのに対し、クラングフィルムはトーキー専業であった。その戦後初のトーキー・システムとして1945年に登場したのが「オイロダイン・システム」である。オイロダインというのは、そこで使われていたスピーカーであったことに由来する呼び名で、スピーカー本体に Eurodyn という文字は無い。なお、1945年当時のモデルは、フィールドの KL-L9431 であり、アルニコは1950年代の途中からである。

オイロダインの背面
オイロダインの背面

オイロダインは劇場用の典型的な2ウェイ・ホーン・スピーカーで、クロスオーバー周波数は 600 Hz 付近である(ネットワーク回路の設計値は 500 Hz で、この値は実測によるもの)。日本に多いジーメンスのオイロダインと、クラングフィルムのオイロダインとの一番のちがいは、高音用のドライバーである。上の写真のように、クラングフィルムが2インチ半ほどの振動板とは思えないほど巨大なドライバー(KL-L302)なのに対し、ジーメンスのドライバーは二回りほど小さい。ウーハーはどちらも KL-L406 で同じである(ウーハー3発のモデルを除く)。この試聴はホーンのデッドニングなど、一切手を加えていない状態で行った。(正確さのために追記するが、オリジナルで行われた音響レンズの取り付けでは、レンズの後端とホーンの間にゴムシートが挟まれており、それがある程度デッドニングの役割を果している)

オイロダインのウーハー KL-L406
オイロダインのウーハー KL-L406

■ ディスク1「マーラー/子供の不思議な角笛」
昨年ついにシュヴァルツコップが物故してしまい、新盤の解説に没年が記載されているのを見るのが寂しい。このディスクは名曲の名演奏の名録音という、三拍子が最高次元でそろった究極の名盤なので、オリジナルのLPを愛蔵している人も多いことだろう。1曲目のフィッシャー・ディースカウが歌う「死んだ鼓手」は、マーラーらしい皮肉っぽい曲で、大太鼓の30 Hzにおよぶ低音が鮮明に録音されている。我が家のラッパでこれをみごとに再生するのは Europa Junior Klarton のみなので、重低音の判定にはもってこいである。耳に染み着いたシュヴァルツコップの声の聴こえ方も、ラッパの素性がよくわかるという点で最高である。

ところで、このCDも最近のデジタルリマスター盤は音の人工的な臭いが強くなってしまっている。この点をオーディオ評論家の新氏にたずねたところ、「特定のデジタル編集装置を使うのであるが、そのためにどのリマスターもその機械の音になってしまう」という恐ろしい回答であった。リマスター以前の旧盤CDを中古レコード屋で探すなどというバカバカしい事態が、現実になってしまうのかもしれない。

「方形の宇宙」の江夏氏がLPよりも好みだ、というジャケット
「方形の宇宙」の江夏氏がLPよりも好みだ、というジャケット

冒頭の大太鼓は15インチウーハーにしては「トンッ」と軽い音で、全体に量感が不足しており、やや中高音寄りのバランスであった。これは小さな仮設バッフルのせいで助長されているが、大きなバッフルに取り付けてもこの傾向があるラッパだ。それで、2メートル角のバッフルが必要という話が登場することになる。フィッシャー・ディースカウの声は硬質だが、説得力があってこの曲にはふさわしかった。4曲めの「ラインの伝説」では、シュヴァルツコップのソプラノが、鮮やかでありながら聴き馴染んだ声のイメージから外れることもなく、魅力的であった。また、ホーン・スピーカーならではの輝かしい金管で、オーケストラ全体も色彩豊かに聞こえた。

■ ディスク2「モーツァルト/女声歌曲集」
このソプラノはフォルテで声がハスキーっぽく感じられるような、少し変調がかった感じの音で録音されているのであるが、オイロダインによってそれが誇張されてしまった。やはり録音を選ぶ傾向のあるラッパである。この録音は後の編集までもがシンプルなのか、スタジオの残響による空気感のようなものが自然に記録されており、少し不鮮明だが古楽器のフォルテピアノの響きが美しい。そのあたりはオイロダインの克明さによってうまく表現された。

■ ディスク3「ヌブー&ハシッドのヴァイオリン」
SPの復刻はナローレンジでノイズもあるので、どんなスピーカーでも十分に再生出来るように思えるかもしれないが、実際には非常に難しい。それは、SP盤のころは再生装置による音響効果も計算に入れて音作りをしていたため、ディスクに入っている音をそのまま再生しただけでは不十分だからである。そのような録音の再生は邪道であるというのなら、ヌブーとハシッドだけでなく、エネスコ、ティボー、クライスラー、そして、全盛期のカザルスらの芸術を良い音で聴くという喜びが味わえなくなってしまう。ところが現実には、これらSP全盛期の録音は、特に弦楽器のソロに関して、現在の不自然な録音よりも好ましいというベテランのオーディオ愛好家が少なくない。それほど、当時の録音エンジニアの見識は優れていたのである。したがって、ディスクには半分しか入っていないヴァイオリンの音を補間する能力は、ラッパにとって非常に重要である。その点においてオイロダインはまずまずであった。ハシッドよりもヌブーが良く、やや金属質ながら、艶やかな美しさが勝った。

■ ディスク4「ショパン/ノクターン全集」
全般にオイロダインのピアノは音が明るすぎるように感じる。もっとも、実際にコンサート・ホールに足を運べば、生のピアノの音はかなり明るくて輝かしいので、オイロダインはそれなりに正しい音を再生しているということになる。このディスクにはアナログ録音とデジタル録音が混じっている。その差は極めてはっきりと聞き取れて、特にデジタルのピアノが明るかったが、この印象にはショパンのノクターンという曲の趣が影響したと思う。よく「オイロダインのピアノは硬い」と聞く。たしかに硬めで少し金属質たが、硬さによってリアルさと輝きが生み出されるというメリットもある。もっとも、アンプによっては聴き疲れする音になってしまうから難しい。

■ ディスク5「ムソルグスキー、ラベル/展覧会の絵、ボレロ」
冒頭の拍手は自然、かつ、臨場感豊かに広がりをもって聞こえた。これには音響レンズも一役買っていて、本来は前に出る傾向のある音像が、後方にも広がるように作用していた。低音がやや軽いのは同じであるが、ラベルの鮮やかなオーケストレーションを存分に楽しめた。よく、オイロダインとドイツの重厚な音楽であるワーグナーやブルックナーを結びつけて語る人がいるが、自分には特別に相性がいいとは思えない。オイロダインには案外カラフルなフランス物がぴったりで、昨年末までのオイロダインをメインにしていたとき、いったい何回クリュイタンスのラベルを聴いたのか数え切れないほどである。ワーグナーなら、むしろテレフンケンの O85 が極め付けのように思う。

■ ディスク6「ワルツ・フォー・デビー」
とにかく、はじけるようなベースの音に圧倒された。もっとボリュームを上げれば、すさまじい迫力になるにちがいない。スネアやハイハットも鮮明で、まるで見えるかのようだった。ジャズのピアノは音像が巨大で、自分にはどう再生されれば正しいのかイメージが持てないのだが、ショパンとは異なり、音色が明るいことはデメリットにはならなかった。

■ ディスク7「サラ・ボーン&クリフォード・ブラウン」
たぶんサラ・ボーンの声はもっと太く再生されなければならないのであろうが、自分にはそれなりに心地よく聞こえた。トランペットも雰囲気たっぷりに鳴ったし、全体にとても満足できた。

■■ まとめ ■■
このオイロダインの音色がそうであるように、ドイツの音はけっして金属的なモノクロームの世界ではなく、寒色から暖色までの豊かな色彩をもつ音である。米国系の音は暖色に偏っているために明るく、より鮮やかに感じるのに対し、ドイツ系の音は冷たい色も含んでいるために一聴すると地味なのだが、じっくりと聴けば、より色合いが豊富で表現の幅が広いことに気づくはずだ。オイロダインはジャズとクラッシックのどちらにもマッチする、さまざまな音色の出せるラッパなので、手間がかかることを除けば万人向けともいえる。予算とやる気があるのなら、初心者が買うのも悪くないと思う。入力抵抗が200オームもあるフィールドよりも、15オームのアルニコが無難だ。

ここで手短に説明できるほど簡単ではないが、オイロダインを使いこなすには、とにかくホーンを手なずけなければならない。マーラーでは良かったシュヴァルツコップも、ゼーフリートとのモラヴィア二重唱では、ホーンが共鳴するように聞こえてしまう部分がある。相性の悪い女声といえばフェリアで、もともとメガホンを付けたような声の傾向が誇張されてしまうのであるが、調整しだいではフェリアのグルックを、えもいわれぬリアルな声で楽しめるようにできるのも事実である。音響レンズはゴム・シート(追補:フェルトもある)を挟んで取り付けてあるので、デッドニングの効果もある。

個人的には、トランス結合を多用してナロー・レンジなアンプを作るという方向よりも、ホーンをある程度デッドニングするほうが賢いと思っている。まことに得難い、ズミクロン・レンズのごとき解像度を台なしにしないためである。また、無帰還アンプは普通のスピーカーでは顕在化しない部品のアラが出て失敗することが多いので、完璧に材料を吟味し尽くすのでない限り、軽くNFBをかけたほうが無難である。もっとも、ジャズを聴くにはそんな小細工は無用で、あるがままが一番よいのかもしれない。

ある弦楽ファンのオイロダイン・オーナーが、「以前のアルティックでは聞こえなかった、カルテットの冒頭で音が出る直前の気配が、オイロダインでは克明に感じられる」と話すのを聞いた。オイロダインの表現能力をみごとに言葉にしたと思う。このようなシリアスなリスニングには、音響レンズが無いほうが適しているが、オーケストラなどの大編成では、音響レンズがあったほうが音像が左右や後方に広がって自然になる。音質も多少はマイルドになるが、下記の評価が変わるほどの大きな差は無い。

ホワイト・ノイズ再生時の音圧の周波数分布
ホワイト・ノイズ再生時の音圧の周波数分布

■■ スペック ■■
: Weight : 重量
: Diameter : 外径
490 mm : Width : 幅
815 mm : Hight : 高さ
415 mm : Depth : 奥行き
: Depth of basket : バスケットの奥行き
: Voice coil diameter : ボイスコイルの直径

15 ohm : input impedance : 入力抵抗
50 - 18 kHz : Frequency range : 実用周波数帯域
70 Hz : Resonance frequency : f0
600 Hz : Crossover frequency : クロスオーバー周波数
(electrical crossover is 500 Hz)
Very high : Efficiency : 能率

■■ 評価 ■■
3 : Amount of bottom frequency : 重低音の量
4 : Amount of low frequency : 低音の量
7 : Amount of high frequency : 高音の量
5 : Amount of top frequency : 最高音の量

7 : Quality of lower frequency : 低音の質
6 : Quality of middle frequency : 中音の質
7 : Quality of higher frequency : 高音の質
4 : Frequency balance : 各音域のバランス

3 : Softness : 音のやわらかさ
6 : Brightness : 音の明るさ
7 : Clearness : 音の透明さ
8 : Reality : 演奏のリアル感
7 : Sound source image : 音像の明瞭さ

5 : Soprano : ソプラノ
5 : Baritone : バリトン
7 : Violin : ヴァイオリン
6 : Piano : ピアノ

7 : Orchestra (strings) : オーケストラ
8 : Brass : 金管楽器
4 : Big drum : 大太鼓の重低音
9 : Triangle : トライアングル
7 : Perspective of applause : 拍手の臨場感

8 : Snare drum : スネアドラム
8 : Jazz base : ジャズ・ベース
5 : Jazz vocal : ジャズ・ボーカル

6 : Aptitude for Classic : クラッシックへの適性
8 : Aptitude for Jazz : ジャズへの適性

運営者情報・お問い合わせ

有限会社キャリコ 〒399-4117 長野県駒ヶ根市赤穂497-634 TEL 0265-81-5707 道具商
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オーディオの歴史とクラングフィルム

クラングフィルムの歴史・スピーカー・アンプ ⇒
・レコードの始まりから書く オーディオの歴史 ⇒

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