乱聴録【其ノ三】クラングフィルム KL42006 KLANGFILM, TELEFUNKEN Ela L45

(2007年10月28日)

初期の台座が付いた 42006
初期の台座が付いた 42006

クラングフィルムでは、1920年代後半のライス&ケロッグ型に次いで古い、この1930年代前半の形状をとどめるセンター・スパイダー型のラッパが、戦後になってアルニコの時代に移り変わるまでの長い間、フルレンジ・スピーカーの王座を守りぬいた。42006 はそれだけ完成度が高く、決定版であったということである。さらに、磁気回路が巨大で外観が立派なこともあって、42006 は現在でも最高のフルレンジとされているのだから、ラッパは1930年代前半から進歩していないと、この一面ではいえることになってしまう。この古風な姿をしたラッパが現在でも入手可能で、そのうえ、すばらしい音を出してくれるということは、ヴィンテージ・オーディオにおける最高の喜びのひとつである。

俗に ZETTON と呼ばれているようだが、KLANGFILM ZETTON システムのメイン・スピーカーは、初期がライス&ケロッグ型で、後期が42002という別のモデルである。42006 はトランク・ケースに組み込んで、ポータブル映写システムに多用されたため、製造数が多く、現在でもクラングフィルムのフィールド型としては、最も数が多いラッパである。したがって、入手は比較的容易だが、すでにかなり高額になってしまっているだけでなく、さらに高騰しそうな勢いである。

シリアルが4万台の初期ユニットは、ガスケットのフェルトが美しい紺色をしている。そのなかには、上の写真のような台座が付いているユニットがある。42006 は磁気回路が非常に大きくて重い割りにフレームが薄い鉄板なので、少しの衝撃で変形してしまう恐れがあるから、この台座が省略されてしまったのは残念である(その後、7万台で台座付きのものを目にした)。6万台になるとフェルトは灰色になるが、代わりにレモン・イエローの半透明塗料が磁気回路の防さび用として塗布されている。下の写真の左側のユニットがそれで、タグには1938年と記されている。旧ドイツによるチェコスロバキア併合が始まった年であり、大戦前夜の優れた品質の製品が生み出された時代でもある。

シリアルが6万台(左)と11万台(右)の 42006
シリアルが6万台(左)と11万台(右)の 42006

右側はシリアルが11万台で、第二次大戦直後の製造と思われるが、品質は意外に高く、敗戦による粗悪な製品のイメージとはほど遠いものである。1945年のオイロダインと同様に、クラングフィルムの七不思議だ。その後、クラングフィルムのモデル・ナンバーが大戦中までの5桁から、1945年ごろの4桁を経て3桁になるのにしたがい、KL-L305 と改められたが、ラッパにこれといった変化は無かった。

42006 の初期には TELEFUNKEN ブランドの Ela L45 という同型のラッパがあった。黒いチジミ塗装、緑色のフェルト、センター・スパイダーのすき間に輝く銅メッキのポールピース。そういったパーツでいっそう魅力的に見えるラッパだが、最大のちがいはコーン紙にある。これまでに入手した2本は、どちらもコーン紙が少し茶色がかっていて質感がちがい、音も少しだけ柔かい印象であった。また、ボイスコイルの直流抵抗も14オーム程度と多少高かった。とはいえ、42006と異なる評価を与えるほどの差は無いので、いっしょにまとめてしまった。試聴は11万台のラッパを中心に、他も少しだけ聴きながら行った。

テレフンケンの Ela L45
テレフンケンの Ela L45

■ ディスク1「マーラー/子供の不思議な角笛」
死んだ鼓手の大太鼓は青いテレフンケンと同じくらいの量感であるが、口径が大きいためか余裕を感じる。フィッシャー・ディースカウのバリトンはオイロダイン以上にリアルで凝縮感があり、ゾクゾクするほどであった。トライアングルやピッコロなど、細かい音も一とおり聞き取れた。ソプラノは軟らかく聞きやすいが、ほんの少し物足りなかった。それでも、シュバルツコップらしい声には聞こえた。途中のバイオリンソロは艶が控え目だが良い感じであった。古色蒼然たる見かけよりもずっと Hi-Fi 的だったのは確かである。

■ ディスク2「モーツァルト/女声歌曲集」
ホールトーンなど、古楽らしい空間の雰囲気は弱かったが、ニュアンスはそれなりに聞き取れた。ソプラノも地味で、ソプラノがフォルテで声が割れるような録音が歪むようなところは、濁ってしまってニュアンスがはっきりと聞き取れなかった。とはいえ、声がソフトで聞きやすかったこともあり、聴いていて悪い気分ではなかった。

■ ディスク3「ヌブー&ハシッドのヴァイオリン」
ヌブーとハシッドはあふれる才能をもつバイオリニストであったこと、そして、若くして命を失ったことで共通している。大二次大戦の初期に行われたブルムラインの装置による録音は、SP時代の頂点ともいえる出来であり、赤レーベルに金泥が輝くヌブーのHMV盤は、ヴァイオリン・ディスク史上の宝石である。ハシッドのほうはエビ茶色のレーベルで、同じ HMV盤でも趣が異なるのだが、念のためにSP盤を取り出して確認したところ、やはりブルムラインの装置を示す□の刻印があった。ウエスタンエレクトリックの装置なら△の刻印である。17才でハシッドが録音したタイスの瞑想曲を HMV の 203型蓄音機で聴くと、「クライスラーが200年に一度の逸材と絶賛した彼のビロードのごとき手で奏でれば、このありきたりに聴こえがちな曲がなんという深い美しさをたたえるのであろうか」と、思わずにはいられない。それほどの美音は望まないにせよ、この録音のバイオリンをフルレンジ・ユニットで満足に再生するのは意外に難しく、試聴にはもってこいである。

ヴァイオリニストに多い早逝の天才である二人
ヴァイオリニストに多い早逝の天才である二人

一聴からしてヌブーはいまひとつであった。高域に蓄音機的な華やかさが無く、電蓄的(当り前だが)であった。ちなみに電蓄とは電気蓄音機のことで、シャキッとした機械式の蓄音機の音に対し、ブーミーな音とされている。ハシッドはまずまずであったが、どうも古いヴァイオリンとは相性が悪いのかもしれない。試しにローラン・コルシアを聴いてみたところ、なかなか良い雰囲気であった。どうもヴァイオリンに関しては新しい録音のほうがマッチするようである。

■ ディスク4「ショパン/ノクターン全集」
録音年代の差はオイロダインほどではないが、はっきりと聞き取れた。音にはかげりがあって、ショパンのノクターンらしい雰囲気を味わうことができた。オイロダインは、20番で音が明るすぎて違和感があった。42006 も全体に少し誇張された感じはしたが、19番では音が少し不安定でいっそうアナログ的に聞こえる効果が生じて、この CD にはマッチしていた。高音は音程によって音色が異なるばあいがあり、調律師だったら気になるであろう。いかにも敏感なフルレンジらしい魅力的なピアノで、ソプラノが地味なのと対象的であった。

■ ディスク5「ムソルグスキー、ラベル/展覧会の絵、ボレロ」
一応フル・オーケストラもちゃんと聞けたし、チューブベルや大太鼓も悪くなかった。トライアングルなど細かい音も聞き取れた。しかし、音場はダンゴ気味になってあまり広がらなかった。もっと大きなバッフルなら良かったのかもしれない。やはり、「フル・オーケストラではツィーターが欲しくなるな」という印象をもった。量感はけっこうあって、ズシンと来た。拍手はダクトを耳に当てて聴いたような、遠くのジェット機の騒音にも似た、変調された感じの音であった。

■ ディスク6「ワルツ・フォー・デビー」
田舎に行くとコイン精米機というのがあって、玄米から精米し立ての米を食べるために利用されている。コイン精米機の動作中は「ザーザー」とも「ジャージャー」ともつかない音が響くのだが、42006 のスネアドラムは、まるでこの音のようであった。ハイハットはまずまずで、ピアノはリアルだが誇張された感じであった。ベースはオイロダインのような弾ける感じではなく、普通という印象を受けた。

■ ディスク7「サラ・ボーン&クリフォード・ブラウン」
クリフォード・ブラウンのミュートを付けたトランペットは、なんともいえない哀愁を帯びた響きであった。少しマイルドに過ぎるきらいはあるが、けっしてあいまいではなく、音のくま取りははっきりとしていた。ボーカルは声が浮き出て良かった。

■■ まとめ ■■
この量産ユニットとしては最も古い形状のフルレンジは、はたして Hi-Fi に使えるのであろうか? その答えは YES でもあり NO でもある。意外にレンジは広く、音の透明感もそれなりにある。往年の名録音ならオーケストラも含めておおむね良好だが、大編成の新しい録音はおもしろくない。フルレンジで高域を補うために良くある 8 kHz 付近のピークは比較的弱く、素直な特性である。したがって、自然で大人しい音である。

Hi-Fi 用ではなく、能率重視の古い設計だが、センタースパイダでショートボイスコイルという、軽い音原らしい敏感な音で、俗にいうハイスピードの典型だろう。いっぽうで巨大なフィールドらしい中音域の凝縮感もあった。低域はやや甘くて使いやすく、オイロダインよりも容易に低音の量感を出すことができる。男性ボーカル専用にモノで使えば最高か? ツィーター無しで満足できるかどうかは、聴く人の感性やポリシーによるが、平均的な米国系の12インチ・ユニットよりもはるかにワイドレンジなことは確かである。娘が借りてきたヒラリー・ダフの DVD を、なんの違和感も無く再生出来たことを付け加えておく。さすがに映画用のラッパだ。

初期の台座が付いたラッパは f0 が 70 Hz と少し高く、後期のものよりも低音が軽く感じられた。テレフンケンは少しだけ柔かい音で、42006 にもかすかにある、SIEMENS 系のフルレンジに特徴的な音の硬さが目立たなかった。さて、だいぶ長くなったが、42006 についてはあまりに書くべきことが多いので、続きは稿を改めて別の書き物にまとめることにする。

11万台のユニットの周波数分布
11万台のユニットの周波数分布

■■ スペック(42006)■■
6.8 kg : Weight : 重量
296 mm : Diameter : 外径
263 mm : Edge diameter : エッジの外径
236 mm : Cone diameter : コーンの外径
193 mm : Depth : 奥行き
88 mm : Depth of basket : バスケットの奥行き
38 mm : Voice coil diameter : ボイスコイルの直径

10 ohm : Voice coil DC resistance : ボイスコイルの直流抵抗
2.7 k ohm : Field coil DC resistance : フィールドコイルの直流抵抗
50 - 12 kHz : Frequency range : 実用周波数帯域
67 Hz : Resonance frequency : f0
Very high : Efficiency : 能率

■■ 評価 ■■
4 : Amount of bottom frequency : 重低音の量
5 : Amount of low frequency : 低音の量
5 : Amount of high frequency : 高音の量
2 : Amount of top frequency : 最高音の量

6 : Quality of lower frequency : 低音の質
7 : Quality of middle frequency : 中音の質
5 : Quality of higher frequency : 高音の質
7 : Frequency balance : 各音域のバランス

6 : Softness : 音のやわらかさ
4 : Brightness : 音の明るさ
4 : Clearness : 音の透明さ
4 : Reality : 演奏のリアル感
7 : Sound source image : 音像の明瞭さ

4 : Soprano : ソプラノ
8 : Baritone : バリトン
4 : Violin : ヴァイオリン
8 : Piano : ピアノ

4 : Orchestra : オーケストラ
4 : Brass : 金管楽器
6 : Big drum : 大太鼓の重低音
3 : Triangle : トライアングル
2 : Perspective of applause : 拍手の臨場感

2 : Snare drum : スネアドラム
6 : Jazz base : ジャズ・ベース
8 : Jazz vocal : ジャズ・ボーカル

5 : Aptitude for Classic : クラッシックへの適性
6 : Aptitude for Jazz : ジャズへの適性

運営者情報・お問い合わせ

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オーディオの歴史とクラングフィルム

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・レコードの始まりから書く オーディオの歴史 ⇒

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