【名機紹介3】クラングフィルム KL42006 KLANGFILM, TELEFUNKEN Ela L45

(2007年10月〜2020年12月:より正確に修正)

初期の台座が付いた 42006で、大劇場の映写室のモニターか、オイロネッテという小劇場用システムのメインスピーカーとして、平面バッフル取り付けられていた可能性が高い
初期の台座が付いた 42006で、大劇場の映写室のモニターか、オイロネッテという小劇場用システムのメインスピーカーとして、平面バッフル取り付けられていた可能性が高い


 クラングフィルム(Klangfilm)では、1928年ごろからのライス&ケロッグ型に次いで古い、この1930年代前半の形状をとどめるセンター・スパイダー型のラッパが、戦後になってアルニコの時代に移り変わるまでの長い間、フルレンジ・スピーカーの王座を守りぬいた。42006はそれだけ完成度が高い決定版であった。さらに、磁気回路が巨大で外観が立派なこともあって、42006 は現在でも最高のフルレンジの一つとされている。その一面では、スピーカーは1930年代前半から進歩していないということになってしまう。

 この古風な姿をしたラッパが現在でも入手可能で、そのうえ、すばらしい音を出してくれるということは、ヴィンテージ・オーディオにおける最高の喜びのひとつだ。一般にKL42006と「KL」を付けて呼ばれることが多いが、ユニットの名板には42006とKLなしで記載されていることが多いので、単に42006と書くことにする。

 42006は俗にZETTONと呼ばれているようだが、KLANGFILM ZETTONシステムのスピーカーは、AEGのライス&ケロッグ型(Rice & Kellog)ユニットを口径12インチ程度に大型化したモデルで、初期型はおそらく42002、後期型は42004という別のモデルであった。42006 はトランク・ケースに組み込んで、ポータブル映写システムに多用されたために製造数が多く、現在でもクラングフィルムのフィールド型スピーカーユニットとしては最も数が多い。したがって、入手困難ではないが、かなり高額になってしまっている。

 シリアルが4万台の初期ユニットは、ガスケットのフェルトが美しい紺色をしている。6万台になるとフェルトは灰色になるが、代わりにレモン・イエローの半透明塗料が磁気回路の防さび用として塗布されている。下の写真の左側のユニットがそれで、タグには1938年と記されている。旧ドイツによるチェコスロバキア併合が始まった年であり、大戦前夜の優れた品質の製品が生み出された時代でもある。上の写真の個体には台座が付いているが、これはポータブル用ではなく、映写室でモニター用に使われていたもので、平面バッフルに固定するための台座である。


シリアルが6万台(左)と11万台(右)の 42006で、左のユニットには1938年の日付が記されたタグが付けられている
シリアルが6万台(左)と11万台(右)の 42006で、左のユニットには1938年の日付が記されたタグが付けられている


右側はシリアルが11万台で、第二次大戦中の製造と思われるが、品質は意外に高く、物資不足による粗悪な製品のイメージとはほど遠いものである。1942年かその翌年には42006はコーン紙を支えるバスケット(フレーム)が鉄板からマグネシウム鋳物に変更された、42020という新しいモデルになった。さらに1945年になると、42020がほぼそのままでKL-L9302という戦後のモデルとして復活する。この4桁のモデル番号は1945年の1年だけで、1946年にはKL-L305に改められた。1930年台前半の42006からKL-L305まで、ほとんど変わらず、コーン紙にも互換性がある。つまり、1933年ごろから20年近くもの長期にわたって、42006系統のスピーカーはほぼ同じものが製造され続けたのである。

42006にはTELEFUNKEN ブランドのEla L45という同型のスピーカーユニットがあった。黒いチジミ塗装、緑色のフェルト、センター・スパイダーのすき間に輝く銅メッキのポールピース。そういったパーツでいっそう魅力的に見えるラッパだが、最大のちがいはコーン紙にある。これまでに入手した2本は、どちらもコーン紙が少し茶色がかっていて質感がちがい、音も少しだけ柔かい印象であった。また、ボイスコイルの直流抵抗も14オーム程度と多少高かった。また、ほぼ同じL48というモデルもある。L45やL48に42006と異なる評価を与えるほどの差は無いので、今回の試聴は11万台の42006を中心に、もっと古い42006やL45なども少しだけ聴きながら行った。


42006の別ブランド版であるテレフンケンの Ela L45
42006の別ブランド版であるテレフンケンの Ela L45


■ ディスク1「マーラー/子供の不思議な角笛」
死んだ鼓手の大太鼓は青いテレフンケンと同じくらいの量感であるが、口径が大きいためか余裕を感じる。フィッシャー・ディースカウのバリトンはオイロダイン以上にリアルで凝縮感があり、ゾクゾクするほどであった。トライアングルやピッコロなど、細かい音も一とおり聞き取れた。ソプラノは軟らかく聞きやすいが、ほんの少し物足りなかった。それでも、シュバルツコップらしい声には聞こえた。途中のバイオリンソロは艶が控え目だが良い感じであった。古色蒼然たる見かけよりもずっと Hi-Fi 的だったのは確かである。

■ ディスク2「モーツァルト/女声歌曲集」
ホールトーンなど、古楽らしい空間の雰囲気は弱かったが、ニュアンスはそれなりに聞き取れた。ソプラノも地味で、ソプラノがフォルテで声が割れるような録音が歪むようなところは、濁ってしまってニュアンスがはっきりと聞き取れなかった。とはいえ、声がソフトで聞きやすかったこともあり、聴いていて悪い気分ではなかった。

■ ディスク3「ヌブー&ハシッドのヴァイオリン」
一聴からしてヌブーはいまひとつであった。高域に蓄音機的な華やかさが無く、電蓄的(当り前だが)であった。ちなみに電蓄とは電気蓄音機のことで、シャキッとした機械式の蓄音機の音に対し、ブーミーな音とされている。ハシッドはまずまずであったが、どうも古いヴァイオリンとは相性が悪いのかもしれない。試しにローラン・コルシアを聴いてみたところ、なかなか良い雰囲気であった。どうもヴァイオリンに関しては新しい録音のほうがマッチするようである。

■ ディスク4「ショパン/ノクターン全集」
録音年代の差はオイロダインほどではないが、はっきりと聞き取れた。音にはかげりがあって、ショパンのノクターンらしい雰囲気を味わうことができた。オイロダインは、20番で音が明るすぎて違和感があった。42006 も全体に少し誇張された感じはしたが、19番では音が少し不安定でいっそうアナログ的に聞こえる効果が生じて、この CD にはマッチしていた。高音は音程によって音色が異なるばあいがあり、調律師だったら気になるであろう。いかにも敏感なフルレンジらしい魅力的なピアノで、ソプラノが地味なのと対象的であった。

■ ディスク5「ムソルグスキー、ラベル/展覧会の絵、ボレロ」
一応フル・オーケストラもちゃんと聞けたし、チューブベルや大太鼓も悪くなかった。トライアングルなど細かい音も聞き取れた。しかし、音場はダンゴ気味になってあまり広がらなかった。もっと大きなバッフルなら良かったのかもしれない。やはり、「フル・オーケストラではツィーターが欲しくなるな」という印象をもった。量感はけっこうあって、ズシンと来た。拍手はダクトを耳に当てて聴いたような、遠くのジェット機の騒音にも似た、変調された感じの音であった。

■ ディスク6「ワルツ・フォー・デビー」
田舎に行くとコイン精米機というのがあって、玄米から精米し立ての米を食べるために利用されている。コイン精米機の動作中は「ザーザー」とも「ジャージャー」ともつかない音が響くのだが、42006 のスネアドラムは、その音を思い出すようなところがあった。まあ、こういった音は金属が振動板のユニットに限るということだ。ハイハットはまずまずで、ピアノはリアルだが誇張された感じであった。ベースはオイロダインのような弾ける感じではなく、普通という印象を受けた。

■ ディスク7「サラ・ボーン&クリフォード・ブラウン」
クリフォード・ブラウンのミュートを付けたトランペットは、なんともいえない哀愁を帯びた響きであった。少しマイルドに過ぎるきらいはあるが、けっしてあいまいではなく、音のくま取りははっきりとしていた。ボーカルは声が浮き出て良かった。

■■ まとめ ■■
この量産ユニットとしては最も古い形状のフルレンジは、はたして Hi-Fi に使えるのであろうか? その答えは YES でもあり NO でもある。意外にレンジは広く、音の透明感もそれなりにある。往年の名録音ならオーケストラも含めておおむね良好だが、大編成の新しい録音はおもしろくない。フルレンジで高域を補うために良くある 8 kHz 付近のピークは比較的弱く、素直な特性だ。

Hi-Fi 用ではなく、能率重視の古い設計だが、センタースパイダでショートボイスコイルという、軽い音原らしい敏感な音で、俗にいうハイスピードの典型だろう。いっぽうで巨大なフィールドらしい中音域の凝縮感もあった。低域はやや甘くて使いやすく、オイロダインよりも容易に低音の量感を出すことができる。男性ボーカル専用にモノで使えば最高か? ツィーター無しで満足できるかどうかは、聴く人の感性やポリシーによるが、平均的な米国系の12インチ・ユニットよりもはるかにワイドレンジなことは確かである。娘が借りてきたヒラリー・ダフの DVD を、なんの違和感も無く再生出来たことを付け加えておく。さすがに映画用のスピーカーユニットだ。

初期の台座が付いたラッパは f0 が 70 Hz と少し高く、後期のものよりも低音が軽く感じられた。テレフンケンは少しだけ柔かい音で、42006 にもかすかにある、SIEMENS 系のフルレンジに特徴的な音の硬さが目立たなかった。さて、だいぶ長くなったが、42006 についてはあまりに書くべきことが多いので、続きは稿を改めて別の書き物にまとめることにする。


11万台のユニットによるホワイトノイズ再生時の音圧の周波数分布
11万台のユニットによるホワイトノイズ再生時の音圧の周波数分布


■■ スペック(42006)■■
6.8 kg : Weight : 重量
296 mm : Diameter : 外径
263 mm : Edge diameter : エッジの外径
236 mm : Cone diameter : コーンの外径
193 mm : Depth : 奥行き
88 mm : Depth of basket : バスケットの奥行き
38 mm : Voice coil diameter : ボイスコイルの直径

10 ohm : Voice coil DC resistance : ボイスコイルの直流抵抗
2.7 k ohm : Field coil DC resistance : フィールドコイルの直流抵抗
50 - 12 kHz : Frequency range : 実用周波数帯域
67 Hz : Resonance frequency : f0
Very high : Efficiency : 能率

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