【名機紹介6】オイロダインの全モデル一覧(前半:フィールドコイル時代:Klangfilm EURODYN of field-coil-types)

ずらりと並んだ歴代オイロダインで、左端が1945年の初代、中間の4台が電磁石のモデル、そして、右端の2台が1954年からのアルニコ磁石のモデルと、右側ほど新しくなる
ずらりと並んだ歴代オイロダインで、左端が1945年の初代、中間の4台が電磁石のモデル、そして、右端の2台が1954年からのアルニコ磁石のモデルと、右側ほど新しくなる


 これからドイツのヴィンテージオーディオを中心とした名機の数々を紹介していくにあたり、第一回をオイロダインにさせていただく。オイロダインは名機の宝庫であるドイツのヴィンテージオーディオ製品のなかでも最重要であるだけでなく、実用すれば素晴らしい音を出す名機だ。車ならポルシェの911、カメラならライカのM3やM4などに相当すると思う。オーディオには真空管やアナログプレーヤー、アンプといった様々な名機があるが、なんといってもスピーカーが音を決める再生装置の要なので、オイロダインを第一に挙げさせていただく。


スピーカー以外でオイロダインという名前が付けられた機器の例で、オイロダインML(アンプシステム)
スピーカー以外でオイロダインという名前が付けられた機器の例で、オイロダインML(アンプシステム)


 まず、オイロダイン(EURODYN)という名前についてだが、初代から最終モデルまで、どのオイロダインをくまなく調べてみても、どこにも「オイロダイン」とは書かれていない。それは、オイロダインというのがクラングフィルム社(Klangfilm)のトーキー映画用音声システムに付けられた名称であって、スピーカーに付けられたものではないからだ。つまり、「オイロダイン・サウンド・システム」のスピーカーだから「オイロダイン・スピーカー」ということなのである。そのため、「オイロダイン・アンプ」というものも存在する。しかし、日本だけでなく海外でも圧倒的にスピーカーが有名なので、世界中の愛好家に「オイロダイン」といえば「オイロダイン・スピーカー」のことだと通用する。

 オイロダインは大きく分けて1945年からの電磁石の時代(フィールド時代)、1954年からのクラングフィルムの永久磁石の時代(アルニコ時代)、そして1965年からのシーメンス時代の3つに分類できる。クラングフィルム社は1966年にシーメンス社に統合されて一部門になったが、オイロダインをはじめとする機器は1年早い1965年に大きく変更されたので、1965年からの期間をシーメンス時代としている。シーメンス時代の音響機器も1983年には製造と供給が打ち切られて終了するが、日本では代理店の関本によってその後数年間販売が続けられた。


フィールド時代のオイロダインの例で、1952年ごろに製造された電磁石(フィールド)のモデルであるKL-L431a
フィールド時代のオイロダインの例で、1952年ごろに製造された電磁石(フィールド)のモデルであるKL-L431a


 上の写真はフィールド時代の後期に製造されたKL-L431aというモデルで、オイロダインのなかでもが数が少ない。15インチ口径のウーファーと500Hz以上の中高音を出す巨大ドライバーが、鉄のフレームにがっちりとマウントされている。この鉄のフレームを大きな平面バッフルに取り付け、映画館のスクリーン裏に設置するのが本来の使い方なので、オイロダインは一般的な箱入りのスピーカーのように完結したシステムではなく、コンビネーションスピーカーユニットだとするほうが正確だ。

 フィールド時代のオイロダインは、例外を除いて入力インピーダンスが200Ωなので、普通のアンプではドライブできない。それは、大きな映画館では映写室からスクリーン裏にあるスピーカーまでの距離が長いため、スピーカーケーブルの電気抵抗でアンプの出力がロスしてしまうのを防ぐためだ。これは電力会社の送電線も同じで、遠くに送るほど高いインピーダンス、すなわち高電圧になっている。特殊なアンプかマッチングトランスが必要なフィールド時代のオイロダインは、この解説を読むまでもないベテラン愛好家向けのスピーカーといえる。


アルニコ時代のオイロダインの例で、登場初年の1954に製造されたKL-L439
アルニコ時代のオイロダインの例で、登場初年の1954に製造されたKL-L439


 アルニコ時代のオイロダインは上の写真のKL-L439というモデル1つだけで、1954年から約10年間も製造された。入手困難なものが多いクラングフィルムの機器のなかでは比較的数が多く、「クランフィルムのオイロダイン」といえば、大抵はこのKL-L439というモデルのことだといえる。入力インピーダンスが15Ωになって普通の真空管アンプでドライブできるようになったこともあって、プレミアムなクラングフィルムのオイロダインを手に入れようと思うのなら、まずはこのKL-L439がターゲットとなるだろう。


シーメンス時代のオイロダインの例で、最後のモデルであるウーファー3基のC72233-A98-A1(このように日本に正規輸入されたオイロダインのホーンには音響レンズが取り付けられていた)
シーメンス時代のオイロダインの例で、最後のモデルであるウーファー3基のC72233-A98-A1(このように日本に正規輸入されたオイロダインのホーンには音響レンズが取り付けられていた)


 1966年になると、シーメンス社(SIEMENS)のグループ会社が統合されて新生シーメンス社になり、クラングフィルム社も吸収されてしまったのだが、オーディオ機器に関しては、その前年の1965年に大きく変わり、1年速くシーメンス時代のラインナップになっていた。日本には1970年代からオイロダインが持ち込まれたので、2000年ごろまでの日本ではこの時代のオイロダインがほとんどであった。上の写真はオイロダインの最終モデルであるC72233-A98-A1で、シーメンス時代にはこのように記憶しづらいモデル番号になった。

 フィールド時代、アルニコ時代、そしてシーメンス時代と30年近い月日のなかでオイロダインの姿や音にある程度の変遷はあったが、基本的な性格は一貫して不変で、武骨な外観と彫りの深い音はどのモデルにも共通している。クラングフィルムと並び称されるウェスタンエレクトリック(ランシングやウェストレックスではない)には、基本的にモノーラル時代の機器しかないのに対し、オイロダインはステレオ時代になっても長く製造され続けた。もっといえば、オイロダイン自体が映画のステレオ化に向けて開発されたスピーカーである可能性が高い。そういう存在のおかげで、我々ヴィンテージ愛好家が最高とするメーカーが製造した、ステレオに適したスピーカーで音楽を楽しむことができる。

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