(2007年10月〜2020年12月)
TELEFUNKEN Ela L6 10インチ・フルレンジ
テレフンケンは1903年に皇帝ヴィルヘルム2世の命により、SIEMENS & HALSKE と AEG によって共同設立された無線分野を開拓するための会社で、社名は遠隔を表す「テレ」と火花や電波を表す「フンケン」に由来する。ちょうどクラングフィルムよりも四半世紀早く、同じ2社によって設立されたこの会社は、現在のオーディオ界ではスピーカーよりも真空管で有名であるが、なんといっても無線通信機器とラジオ放送機器での成功が顕著であり、膨大な数の製品を製造した。
このユニットは数発を並べたフルレンジ、あるいは10個以上を並べて小型のホーン・ツィータと組み合わせた2ウェイとして、主にPA用途で使われた。幅広く用いられた割には数が多くないように思う。濃いブルーに塗装されたバスケットは、ジーメンスの10インチユニットのような薄いアルミではなく、肉厚でガッチリとしている。この塗装色から「ブルー・フレーム」などと呼ばれるようになった。最も美しいスピーカーユニットの一つだ。
この記事では青いテレフンケン、あるいは単にテレフンケンと呼ぶことにする。コーン紙はエクスポーネンシャル形状で、中央の赤色いキャップが乳首のような形状であることから「レッド・ニップル」とも呼ばれる。このユニットのフルレンジ再生は、オイロダインと切り替え比較をしても十分に聴きごたえがあるほどで、音質もドイツ製スピーカーの典型である。このユニットの試聴はアルニコのオイロダイン(KL-L439)と比較しながら、平らなマグネットのもの2個で行なった。
■ ディスク1「マーラー/子供の不思議な角笛」
最初の「死んだ鼓手」では、冒頭の大太鼓がオイロダインよりも量感があることに驚いた。逆にいえば、小さな仮設バッフルに取り付けられたオイロダインの量感が不足しているのだが、さらにちっぽけな箱に入れらたテレフンケンが勝るのだから、やはり低音は優れていると判断できる。皮肉っぽい歌詞を歌う表情豊かなフィッシャー・ディースカウの声は自然に再生され、やや誇張のあるオイロダインよりも好感がもてる音であった。オーケストラはホーン型のオイロダインほど鮮やかではないが、すべての楽器のパートが十分に楽しめた。4曲めの「ラインの伝説」ではシュヴァルツコップのソプラノが少し艶の無い声に感じられた。
■ ディスク2「モーツァルト/女声歌曲集」
「モーツァルト/女声歌曲集」からは10曲目の「Abendempfindung」(夕べの想い)」をいつも聴くことにしている。ソプラノはフルレンジでは物足りないことが多いが、このユニットはまずまずで、10インチのフルレンジとしては優れている。ソプラノの声の歪みはオイロダインほど強調されず、平均的であった。ただし、テレフンケンでは本来エレガントであるはずのソプラノが、少しだけたくましく感じられてしまった。空気感や古楽器のフォルテピアノの美しい響きは、明らかにオイロダインの方が優れていたが、テレフンケンでもそれなりに味わえた。
■ ディスク3「ヌブー&ハシッドのヴァイオリン」
ヴァイオリンでは、ホーンによる音作りに秀でたオイロダインとかなり差がついたが、それでも10インチのフルレンジとしては上々の表現力であった。ヌブーよりもハシッドが良く、厚みのある音で充実していた。
■ ディスク4「ショパン/ノクターン全集」
フルレンジ・ユニットにとってヴァイオリンの再生が難しいのに対し、ピアノは全般に得意なジャンルのようで、このテレフンケンもピアノは優れていた。右手の響きが華やかなオイロダインも良かったが、少しカンカンした金属的なところがあって、むしろテレフンケンのほうが好ましく感じられた。テレフンケンのピアノには 42006 のような愁いはなく、ショパンのノクターンにはやや健康的すぎる音ではあるが、バランスのとれた、それなりに華のある響きを聴かせてくれた。デジタル録音とアナログ録音の差もはっきりと聞き取れた。
■ ディスク5「ムソルグスキー、ラベル/展覧会の絵、ボレロ」
冒頭の拍手はフルレンジ・ユニットには厳しいものだが、会場にひろがって行く雰囲気がまずまず自然に聴けた。フィナーレのキエフの大門でも、分厚い低音に支えられたオーケストラのピラミッドが崩れることは無く、余裕さえ感じられたのはさすがであった。繊細感には乏しいが団子にはならず、ブラスの輝きはそれなりにあり、トライアングルもきちんと再生された。
■ ディスク6「ワルツ・フォー・デビー」
やはりフルレンジ・ユニットには厳しいスネアドラムだが、このテレフンケンはかろうじて合格点で、いちおうそれらしく聞こえた。ピアノはドイツのユニットとしては明るく健康的な音色がマッチして、ショパンよりも良かった。ウッドベースは量感と弾力感がすばらしく、10インチとしては最高の部類であった。
■ ディスク7「サラ・ボーン&クリフォード・ブラウン」
この録音では、テレフンケンはほとんどのパートでオイロダインよりも好ましい音を出した。とくに、サラ・ボーンのボーカルは出色で、全体的な音の雰囲気も演奏にマッチしていたので、これなら、「ジャズ系なら755A をはじめとする米国系のラッパのほうがいいかも」などと気にする必要は無いだろう。
■■ まとめ ■■
みるからによい音がしそうなユニットだが、やはり優れた再生能力をもっていた。テレフンケンはエクスポーネンシャル形状のコーンの発明など、黎明期のスピーカー開発をリードしたメーカーであり、当然ながらスピーカーの製造では最高の技術をもっていた。「そのテレフンケンで最も実用的なラッパではないか?」というのが、試聴を終えた自分の感想である。同様な10インチのSIEMENSに比べると力強く元気な音で、男性的に感じられるかもしれない。
下の周波数分布を見ればわかるように、高域はの伸びはドイツのフルレンジとしては標準的より上だが、さらに8kHz前後を持ち上げて聴感上の満足を得るという、典型的な音作りもしてある。また、周波数分布は少しデコボコしていて、それによる癖が力強さにつながっているようだ。能率は非常に高く、音に多少の荒さはあるものの、驚くべき実力を持つラッパだ。なお、2ウェイにすることで荒さは解消できるだろう。
■■ スペック ■■
2.2 kg : Weight : 重量
247 mm : Diameter : 外径
213 mm : Edge diameter : エッジの外径
188 mm : Cone diameter : コーンの外径
138 mm / 128 mm : Depth : 奥行き
78 mm : Depth of basket : バスケットの奥行き
30 mm : Voice coil diameter : ボイスコイルの直径
2 ohm : Voice coil DC resistance : ボイスコイルの直流抵抗
60 - 15 kHz : Frequency range : 実用周波数帯域
59 Hz : Resonance frequency : f0
Very high : Efficiency : 能率