最近はアナログレコードがブームで、アメリカではアナログレコードの2020年の年間売り上げ額がCDを上回る見通しだそうです。ところで、日本では昔からレコードという名称が一般的ですが、英語圏ではDisk(ディスク)が一般的なため、アナログレコードはアナログディスクになります。CDもコンパクトディスクの略ですね。
レコードは「録音」という意味で、元々はレコード盤と呼ばれていたのがレコードになったようです。じっさい、アナログレコードだと、磁気テープに録音されたソース(音源)にも当てはまってしまいます。レコード盤が発明されたのは1988年で、エミール・ベルリナーというドイツ系アメリカ人による特許でした。それ以前はエジソンが発明した円筒形の硬質ワックスの側面に音を刻んだシリンダーレコード(和名は蝋管で、なぜかレコードシリンダーとは呼はれない)が使われていました。
最初期の本格的商業ディスクであるベルリナーの7インチ盤で、ランドン・ロナルドのピアノ演奏によるドビュッシー作曲「子供の領分」より(19世紀末の1900年)
ベルリナーは1887年にシリンダー型蓄音機の特許を「グラモフォン」という名称で出願していたため、レコード盤の発明が1887年とされていることが多いようですが、円盤型蓄音機の特許は1888年に出願されました。上の写真は19世紀最後の1900年にベルリナーの故郷であるドイツのハノーファーでプレスされた、ベルリナーが設立したグラモフォン社によるアナログディスクです。円筒型と異なり、円盤型はプレスすることで大量生産できたため、グーテンベルクの活版印刷が端緒となって出版文化が花開いたように、レコード文化のスタート点となりました。下の写真はシリンダー型とディスク型の、往年の名蓄音機たちです。
名機とされる数台の蓄音機で、左側にある箱型の2台はディスク型で、右側のラッパ付きのものはシリンダー型
ベルリナーの時代のアナログディスクは、ラックカイガラムシの分泌物(シェラック)などの樹脂で石の微粉末を練り固めたもので出来ているため、英語圏では「シェラック・ディスク」、または単に「シェラック」と呼ばれます。第二次世界大戦直後までの家庭での音楽ソースは、ほぼ「シェラック」とラジオ放送だけでした。下の写真はドビッシー自身が自作の歌曲の伴奏をした「シェラック」の「レーベル」です。「レーベル」はディスクの中央に貼られた紙ラベルのことですが、主に「レコードの商標」という意味で使われています。
ドビュッシーが自作の歌曲「アリエッタ第5番」を歌うメリー・ガーデンにピアノ伴奏した「SP」で、1904年のオリジナル盤ではなく、国際レコードコレクターズ・クラブが1937年に復刻発売したもの
「シェラック」は一部を除いて1分間に78回転という規格で、これが標準的だったのでスタンダード・プレイ(略して「SP」)と呼ばれました。これに対し、1948年に初発売されたビニール盤の多くは1分間に33と1/3回転が一般的なうえ、溝が細くて長時間の音楽を収められたのでロング・プレイ(略して「LP」)と呼ばれました(「EP」や「ドーナツ盤」などもある)。「LP」の英語圏での呼び方は、「シェラック」を聴かない普通の愛好家なら「アナログ・ディスク」、「シェラック」を聴くベテラン愛好家なら「ヴィニール」が一般的なようです。
薄い茶色の紙袋に入れて販売されることが多かった「SP」に対し、柔らくてデリケートな「LP」は、下の写真のような美しくデザインされたジャケットに入れて販売されました。これもアナログディスクの魅力で、お気に入りのアーティストなら、小さなCDより大きなLPのジャケットのほうが所有する喜びもひとしおで、写真のようなヴィンテージの「名盤」ならなおさらです。「名盤」とは、優れた演奏が収録されたディスクのことで、本来はたくさん売れれば「名盤」のはずですが、古くて希少性のある有名アーティストのディスクが「名盤」とされる傾向があります。
1950年代の直径10インチ(約25 cm)と少し小さめなモノーラル録音の「LP」で、名ヴァイオリニストのカンポーリの録音など
1982年になると、ついに「CD」が発売されました。最初の商用音楽CDは、ベルリナーの「シェラック」と同じハノーファーで製造されました。ハノーファーは音楽ディスクの故郷といえます。なんといっても、それまでのアナログ式からデジタル式になったので、エジソン以来の大変革です。CDは当初直径11.5 cmで計画されましたが、そのときソニーの会長だった大賀典夫氏によって、ベートーベンの交響曲第9盤を1枚に入れられる直径12 cmに変更されました。これは当時を知るベテラン愛好家には有名な話です。CDの写真なんて、わざわざ示す必要がないですね。