ンキョーのCDプレーヤーの出力を、ケンブリッジオーディオのプリメインアンプとB&Wのスピーカーの組み合わせを比較対象にして聴いた、SONYのサウンドバーHT-G700
私(小林)にとって最も未知なるオーディオ製品がサウンドバーでしたので、写真に示すSONYのHT-G700を購入してみました。DENONのDHT-S216も音楽再生用として高評価のようですが、わずか2万円ちょっとのサウンドバーをほかのオーディオ装置と比較するのはかわいそうなので、立派な低音再生用スピーカーが付属するHT-G700にしました。6万円弱でしたので、我らヴィンテージオーディオ愛好家にとって真空管2〜3本分くらいの投資ですね。
少し前までサウンドバーはTV専用というイメージでしたが、映像なしで音楽を聴くためのオーディオ再生装置としても幅を利かせつつあります。何でも小さく簡易になっていく昨今、スマホに内蔵されてカメラが衰退したように、一般家庭のオーディオ装置もサウンドバーに吸収されてしまうかもしれません。黒船来航のごとく続々登場するサウンドバーの評価をWEB閲覧してみると、いいことがいっぱい書かれていて、なん百万円もするアンプやスピーカーでもドルビー○○といったカタログを飾る特別な機能がない単なる2chですから、数万円のサウンドバーに負けてしまいそうに思えるほどの書きっぷりでした。さすがにプロのライターは、褒めるのがうまい。
注文後数日で届いた実物は予想外に大きく、横幅が約1メートルもあって置き場所に困り、写真のようにダイニングテーブルを占拠して試聴することになってしまいました。今どきこんな大きなものが一般家庭で受け入れられるなんて、大画面TVの御威光は大したものです。サブウーファーと呼ばれる低音再生用スピーカーも高さ約39センチと大きいですが、本体との音の到着時間差が10ミリ秒未満になる距離(2メートル以内が無難)ならどこに設置しても音はほぼ同じで、しかもブルートゥースでつながるので邪魔にはならないでしょう。
CDプレーヤーはオンキョーのC-7030で、光出力をHT-G700のTV入力に接続しました。この接続方法で、ものすごく古くて光出力の無いCDプレーヤーを除き、大抵のサウンドバーと組み合わせてCDが聴けます。一方、C-7030のピンプラグのライン出力を、ケンブリッジオーディオのプリメインアンプTOPAZ AM5に接続してB&WのスピーカーCM1を鳴らしました。CM1は数年前に大ヒットした同社の中級グレードラインナップでは最小のモデルで、ご存じの方が多いことから使いました。
書いているとき、ちょうどオンキョーが債務超過になったというニュースが報じられました。C-7030はここ数年間、新品で買える安いCDプレーヤーのなかでは最良の製品でしたが、同社の苦境のために製造が打ち切られたようです。次々と日本の老舗オーディオブランドが衰退していく様は寂しい限りです。
私はサウンドバーを含む新参オーディオ機器にとって最も不得意と思われる、クラッシック音楽が好きです。まずオーケストラのCDを何枚か聴いてみると、痩せた音に感ずるものの、案外まともに聴けました。もちろん、HT-G700はMusicモードにしないと、不自然で聴けたものではありません。いま、何モードになっているのか液晶で表示されるのは分かりやすく、ベテランユーザーにはありがたい機能です。
しばらく聴いてから価格がHT-G700の2倍ほどのTOPAZ AM5とCM1の組み合わせに切り替えてみると、音の広がりがより大きくて自然で、まだまだ従来のオーディオ装置のほうが一枚上手だな、と感じました。サウンドバーには音を広げて臨場感を増す機能がてんこ盛りのはずですが、Musicモードでは大して働かない、というか不自然になるので限度があるといったところのようです。どうも映像なしのオーケストラ再生は、サウンドバーにとって荷が重いようです。
サウンドバーで聴いたCDの例で、サラ・ボーンの「Sarah Vaughan & Clifford Brown」とエリーザベト・シュヴァルツコップの1956年のザルツブルクリサイタル
いっそのこと、最新のサウンドバーで古いモノーラル録音を聴いてみることにしました。
ジャズながらクラッシックファンでも十分に楽しめるサラ・ボーンと、ドイツ歌曲を神髄が聴けるエリーザベト・シュヴァルツコップという、二人の女性ボーカルです。オーケストラとは反対に、こちらでは従来型オーディオのCM1よりサウンドバーのほうが声が自然に聴こえ、トータルでもサウンドバーに軍配が上がりました。ボーカルがぴたりと中央から発声される様は申し分ありません。正直なところ、CM1のボーカル、とくにソブラノの音質は、私の好みではありません。
じつは、HT-G700を選んだ時点で「ボーカルや弦楽器のソロや小編成が良さそうだ」という予想をしていました。HT-G700の音を出している部分(スピーカーユニット)は、横幅10センチほどの小さな楕円型のものが、各チャンネル当たり1個だけで、「シングルコーンフルレンジ」と呼ばれる、昔から最もシンプルで素直な音とされている方式になっていて、ボーカルなどにぴったりだからです。ソニーの新製品なのに無理にハイレゾ対応させていないところも、実質的な音を重視したように思えて好印象でした。
試聴した状態では真ん中のスピーカーユニットがお休みのようなので、2つの小さな「シングルコーンフルレンジ」に低音専用のサブウーファーという、従来のオーディオ装置の構成のなかでも、最も好ましい形態の一つがサウンドバーで安価に簡単に実現できてしまったことになります。しかも総合計400ワットものアンプ付きです。このように昔からのオーディオの知識や経験が、最新のサウンドバーにも当てはまることを愉快に感じました。ちなみにDENONのDHT-S216は高音専用の別のスピーカーユニットが2つ内蔵されていて、「シングルコーンフルレンジ」ではありません。
昔の大型テレビには、けっこう本格的なアンプとスピーカーが内蔵されていた
テレビのオーディオ(再生音)というのは、昔から本格的なオーディオ装置を脅かす存在でした。オーディオマニアが凝りにこった再生装置を構築して、「う~~ん、低音がうまくいかない」なんて悩んでいるとき、ふとテレビをつけると歯切れのいい低音が出てきてギャフン、なんて話を聞きました。昔のテレビのオーディオ部分は、スピーカーにアルニコ磁石というマニア垂涎のパーツが使われているなど安物ではないうえ、単体のオーディオ装置のように売るための虚飾や余計な思い入れがなく、ただ音の実質を追求してあったので良い音が出たのでしょう。
小型のブラウン管テレビにも、けっこう音の良い楕円型のスピーカーが内蔵されていて、やはり侮れませんでした。真空管時代のテレビなら、そこそこのヴィンテージシステムに匹敵するオーディオ装置を内蔵しているといえます。今日のTVオーディオであるサウンドバーを聴きながら反省するということは、やりすぎて音がまとまらなくなったりするオーディオ愛好家の良薬になるのではないでしょうか。
Q&Aと用語でオーディオ入門2】(2020年10月)