【入門3】音を決めるスピーカーの選び方(いろいろな購入パターン)

2016年4月(2016年12月改訂)

 これまではショップでスピーカーを選ぶお話をしましたが、気に入ったスピーカーが見つからなかったらどうしましょう?価格比較サイトなどの情報で、てっとり早くお買い得なスピーカーを選ぼうという人がこの記事を読むとは思えないので、一旦落ち着いていろいろなパターンを検討してみましょう。じつは、その過程こそが趣味への入り口、すなわち入門の第一歩なのです。案外、ベテラン愛好家もこの記事を読んでくださっているようです。いろいろヒントになると思いますので、ひと通り読んでみてください。

(パターン1) 通信販売で購入



ショップにはあまり置かれていないメーカー製品の例(ATC SCM7)
ショップにはあまり置かれていないメーカー製品の例(ATC SCM7)

 ショップに置いてあるスピーカーには限りがあります。とくに地方ではそうですから、普通の家電品だったらネット通販などで買うことになります。通販なら、ショップにはめったに置かれていない珍しいスピーカーも買えるので、選択肢が広がります。しかし、スピーカーは「評価★★★★☆」といったことで買うのは危険です。音の良し悪しは抽象的な情報なので、他人の感性は当てになりません。そもそも、「どうやってスピーカーを選ぶのか?」という入門の段階にいるので、最終的に通販で購入するにしても、その前に決断するための情報と理解が必要になります。ですから、実際には一番多い購入パターンである「通信販売で購入」は、なるべく知識を蓄えてからにしたほうがいいので、申し訳ありませんが「こうしましょう」といった手短なアドバイスは無理です。趣味ですから、頭でっかちでスタートのほうが楽しいくらいです。

(パターン2) 自作する



自作するばあいの例(8 cmのユニットを使った総工費1万円くらいのスピーカー)
自作するばあいの例(8 cmのユニットを使った総工費1万円くらいのスピーカー)

 普通にディーラーで車を買ってそのまま乗る人は、たとえ高級車やスポーツカーを買う人でも、「車が好き」なだけで「車が趣味」とはいえないように、ただスピーカーを買うだけでは「オーディオ愛好家」にはなれないでしょう。「趣味」というからには、いくつもコレクションしたり、改造したり、あるいは古いものを大切に維持したりといった、特別なこだわりに時間を費やすことが必要です。そういう意味では、たとえお金はかけなくても、スピーカーの自作は立派な趣味です。昔の学生にとって自作が定番だったので、わたしも高校卒業までダイヤートーンのP610という16.5 cm口径の安価なフルレンジスピーカーユニットを、大きなベニア板に取り付けただけの自作スピーカーを使いました。

 上の写真は数年前に息子と一緒に自作した、フォステクス製の8 cmフルレンジスピーカーユニットを使ったスピーカーで、総工費1万円くらいです。そういう安価なものから、首長竜のようなコンクリートホーンまで、自作は奥深くて楽しい趣味の世界です。もし、自作は難しいとお考えなら、フォステクスに「かんすぴ」という安価で簡単な入門用スピーカー自作セットがあります。いいスピーカーを購入した人も、試しに「かんすぴ」を買ってみればオーディオへの理解が深まります。自分で苦労した作品から出る音は、良く聴こえるものです。決め手のスピーカーがなければ、とりあえず「かんすぴ」でも聴きながら、ゆっくりと情報収集しましょう。

(パターン3) ネットークションで購入



ネットオークションで買うばあいの例(英ジョーダンワッツ JUNO)
ネットオークションで買うばあいの例(英ジョーダンワッツ JUNO)

 いまどきは新品でいいものが見つからなければ、すぐに「ヤフオクで中古」という発想のようですが、一部の例外を除いて中古品は劣化しているスピーカーがほとんどなので、入門者にはお薦めできません。実際、わたしもスペンドールというブランドのスピーカーをヤフオクで物色してみましたが、「こんな中途半端に古いものがそんなに高いの?」といった状況で、結局買いませんでした。その代わり、eBayでジョーダンワッツという、若いころに興味があったスピーカーを買いました。リスニングルームの工事中に臨時で使うシステムとして購入したものです。はじめは入門者の参考例になると思っていましたが、スピーカーを海外から個人輸入のうえにアンプも特殊では入門にふさわしくないので、その一件は別の記事でご紹介することに変えました。

 もし、あなたが過去に欲しかったスピーカーがあってネットオークションで再会し、ダメ元で購入するというのなら悪くないと思います。つまり、ネットークションを本当に楽しめるのは、オーディオのベテランや、かつて楽しんでいた人です。そういうなかに、音楽を聴く時間よりもネットで物色している時間の方が長い人が増えているのは困りものですが、それほど魅力的なのは確かなので、「入門者だが、どうしても」という人は、自作用の安価なスピーカーユニットをネットオークションで購入してみてはいかがでしょうか。

(パターン4) 敷居の高い超専門店で買う



高い志をもって、いきなり究極のスピーカーを購入するばあいの例(オイロダイン KL-L439)
高い志をもって、いきなり究極のスピーカーを購入するばあいの例(オイロダイン KL-L439)

 車でいえばレクサス○△店やポルシェセンター○×といった程度の敷居の高さではなく、もっとアンフレンドリーなショップのことです。オーディオでは多少の怪しさも手伝って、かなり入りにくいショップがあり、案外そういうところが生き残っている傾向にあります。そんな超専門店では、高価なハイエンド装置や、珍しいヴィンテージ機器などが売られています。「初心者お断り」と書いてあるようなものですから、入門にはふさわしくありませんが、勇気を出して冷やかしに行けば、カルチャーショックを受けて視野が広がるかもしれません。また、以下のような考え方もあります。

 既成品を買うばあいでも自作でも、まずは安価なスピーカーから始めて、徐々にグレードアップして高価なスピーカーに買い替えていくというステップは、入門者にとって無難なだけでなく、その過程で色々なスピーカーを経験できるので楽しいものです。しかし、初めから超専門店などで究極のスピーカーを購入するという選択肢もあります。少年時代に読んだあるオーディオ雑誌に、たしか「50万円以内でオーディオ再生装置一式をそろえる」といったような記事がありました。スピーカーに半分の25万円、アンプとプレーヤー(当時はアナログ)に4分の1づつといったバランスのとれた組み合わせが紹介される中に、ルボックスというスイス製の高価なオープンリールテープ録音機とヘッドホンだけを購入し、友達の装置で再生してもらった音楽を録音して楽しむという過激なプランがありました。これは最終的な数百万円の再生装置を構成する機器を、買い替えることなく順番に買っていくという遠大な計画で、ルボックスは最後までメインの録音機として活躍することになります。

 わたしはグレードアップと対極の発想に衝撃を受け、無理をしてQUADというイギリス製の、それもヴィンテージな真空管アンプを購入しました。しかし、QUADのアンプを長くは使いませんでした。自分にとっての最終的な装置が変わってしまったからです。このように、初めから究極のスピーカーを購入することは、一見無駄がないようでいて大金を費やすことになりがちです。それでも、趣味人は自分にとっての究極を探し求めてしまうものです。

 上の写真はそんな人向けの例で、オイロダインというドイツ製のヴィンテージスピーカーを、ミニコンポのセンターユニットと組み合わせるプランです。スピーカーに予算の約99 %、それ以外に1 %の配分になります。予想外にまともな音が出ますし、歴史の重みを感じる逸品の魅力は絶大ですが、お薦めはできません。入門者には無縁のパターンをご紹介してしまいましたが、「必ず買い替えるので無理のないように」ということをお伝えしたかったのです。

(パターン5) 売っていないものを手に入れる



泥沼で苦労したい人のための一筋縄ではいかないスピーカーの例(オイロパ・ユニア)
泥沼で苦労したい人のための一筋縄ではいかないスピーカーの例(オイロパ・ユニア)

 さらに過激な選択肢として、使っている人がほとんどいない珍品スピーカーの購入や、前例のないような独創的なスピーカーの制作といった苦難の道があります。上の写真は1935年ごろにドイツで製造され、ナチスのプロパガンダ映画の上映にも用いられた「オイロパ・ユニア(EUROPA JUNIOR)」というスピーカーです。第二次対戦による破壊でほとんどが失われてしまったため、入手には大変な努力が必要です。もちろん執筆時点で販売しているショップはありませんし(筆者調べ)、最近では海外のネットオークションにも出品されなくなりました。ドイツに行って愛好家巡りをすれば、所有している人は何人かいるでしょうが、わたしの知る限り譲る気の無い人ばかりです。

 さらに、苦労して入手したからといって、まともな音が出るとは限りません。ウェスタンエレクトリックというメーカーの第二次世界大戦前を中心に映画館で用いられた製品もそうですが、こういうスピーカーには骨董品の壺や名画のようなところがあり、うかつに手を出すと痛い目にあいます。大金をつぎ込んで時間をかけて、やっとのことで装置を整えても、往々にして不具合が発生し、複雑な分解調整やら入手困難な部品やらで音が出ない状態に陥ってしまいます。自分も時々そうなるので、反省しなければいけません。音が出ないのでは音楽が聴けませんから、どんな安物の再生装置にも劣る最悪のシステムです。そういうわけで、入門者が第一に避けるべきプランですが、インターネット上にある大家とおぼしきオーディオ愛好家の情報には、このようなスピーカーが登場しがちなので、驚いて欲しくなったりしないように書きました。

おすすめのパターンは?



フルレンジスピーカーユニットの例(旧東ドイツRFT製のダブルコーン10インチ)
フルレンジスピーカーユニットの例(旧東ドイツRFT製のダブルコーン10インチ)

 いろいろなパターンをご紹介しましたが、本当に選択肢が広く、結局「いろいろ聴いて気に入ったものを選ぶ」ということに尽きます。無難なところでは、ある程度のお金を出して新品のスピーカーを買うか、安価なスピーカーユニットで自作するということになります。「これ!」というスピーカーに出会えないのなら、まずは安価なフルレンジスピーカーユニットから始めましょう。自作が面倒なら、フルレンジスピーカーユニットが箱に入った安いスピーカーを買うのでもいいと思います。

 失敗しても損害は大きくありませんから、日本製、アメリカ製、ヨーロッパ製と順番に3組買ってみれば、国による音の違いが分かると思います。簡単な箱でいいので比較しながら聴いて楽しめば、それがオーディオ入門者の王道かもしれません。そうやって聴くうちに、「このCDはこのスピーカーが合う」といった相性が分かってくると思います。いろいろな録音、いろいろな音楽を聴くうちに、「CDや音楽ファイルなどに入っている音を、そのまますべて出せるだけでは理想の再生装置ではない」という、オーディオの真髄が理解できると思います。

【用語解説】


※「スピーカーユニット」: 箱形などのスピーカーを構成する要素のうち、音を出す部分のひとまとまりの部品が「スピーカーユニット」。単に「ユニット」と呼ぶことも多い。海外では「ドライバー(driver)」のほうが一般的。浅い円錐形をした紙やプラスチックなどの振動板をもつ「スピーカーユニット」や、半球形のプラスチックや金属などの振動板をもつ「スピーカーユニット」などがある。同じスピーカーの部品でも、直接音を出さない端子や配線、電気回路などの部品は、一般に「スピーカーユニット」とは呼ばない。

※「フルレンジスピーカーユニット」「フルレンジスピーカー」:低音から高音まで、すべての音を1つの「スピーカーユニット」で再生するように作られたものが「フルレンジスピーカーユニット」。多くは浅い円錐形の紙の振動板1つだけだが、複数の振動板をもつ複雑な構造のものもある。「フルレンジスピーカーユニット」を内蔵し、その「スピーカーユニット」が低音から高音まですべての音を再生するスピーカーが「フルレンジスピーカー」。低音と高音を別々の「スピーカーユニット」で再生するスピーカーは、一般に「2(ツー)ウェイスピーカー」や「マルチウェイスピーカー」と呼ばれる。

※「センターユニット」: 一般にアンプ、ラジオ(チューナー)、およびCDやDVDなどのプレーヤーを組み合わせたものが「センターユニット」。ミニコンポと呼ばれる安価な再生装置は、「センターユニット」にスピーカーを組み合わせたものが多い。

※「音楽ファイル」: CDなどに記録されているものと同様な音声データを、パソコンのファイルのように、記憶媒体に保存やコピーができる状態にしたもの。CDよりもデジタル信号の桁数や時間軸の細かさを高めることができる。

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