【入門2】音を決めるスピーカーの選び方(ショップで購入するばあい)

2015年10月(2016年12月改訂)

 音はスピーカーで決まります。昔は音の入り口であるアナログレコードプレーヤーやピックアップカートリッジなども音質に大きな影響があって、機器の選択や使いこなしも難しかったので大変でした。それはちょうど、クラッチ操作が必要なマニュアルの自動車のように、初心者には敷居の高いものでした。パソコンで音楽ファイルを再生する方式が主流になった2010年ごろからは、安価なデジタル機器で簡単に音の入り口を良好な音質に仕上げられるようになったので、ますますスピーカーが決め手になりました。それだけでなく、スピーカーを決めればアンプなどのほかのコンポーネントも無駄なく決めることができます。たとえば、スピーカーが高感度ならアンプは小出力で済みます。では、そんなに重要なスピーカーをどうやって決めて、どうやって買えばいいのでしょうか?

無駄遣いを重ねてしまった悪いオーディオ装置の見本
無駄遣いを重ねてしまった悪いオーディオ装置の見本

 その答えは「自分が気に入ったものを買う」ということになりますが、これが簡単ではなく、わたしも無駄遣いをさんざんして来ました。その昔、神田明神下にあったマニア御用達のオーディオショップで顔なじみのお客さんたちと雑談中に、わたしが「オーディオにお金をかけるのは1千万円が上限だな」と発言したところ、みなさんが苦笑いしました。すると、ショップのオーナーが「この人たちはとっくに1千万円以上使っているよ」と、教えてくれました。そのときは驚いてあきれ顔をした自分ですが、同じ道をたどってしまいました。みなさんがそんな無駄遣いをしなくても済むように、せん越ながら親身になってアドバイスをさせていただこうと思います。

 まず、「究極の」とか「最高の」とかいうのはやめましょう。そんなスピーカーはありませんし、万人が最も良い音だと感じるスピーカーもありません。最も高額なスピーカーならあるでしょうが、そういうのに限って癖が強いことが多く、購入時の熱が冷めた後は無駄遣いを反省する日々になりがちです。まずは予算とスペースを確認しましょう。確認できたら、買うより先に現物を見聴きすることです。もし、拝見できるオーディオ愛好家のリスニングルームがあるなら、ぜひ訪問してみてください。そういう幸運は多くないので、普通は販売店に行くことになるでしょう。ネットで買うにしても、ある程度実体験しないと妥当な判断ができないと思います。

地方のオーディオショップに陳列されていたスピーカー(長野県伊那市のオデオンさん)
地方のオーディオショップに陳列されていたスピーカー(長野県伊那市のオデオンさん)

 わたしは信州の南部(要するに田舎)に住んでいて、近所にあるヤマダ電機やエディオンといった家電量販店には、趣味として楽しめる魅力的なオーディオ製品は、スピーカーに限らずほとんど陳列されていません。いっぽう、都会の高級オーディオコーナーがある超大型店や、地方でもオーディオ専門のショップなら、たくさんのスピーカーが並んでいて切り替えて聴かせてくれます。高額商品が多いので入門者には敷居が高いでしょうが、そういうところに来る客が購入する確立は低いので、冷やかしでも気にする必要はありません。とにかく実物を見聴きして、体験を積み重ねることが大切です。雑誌やインターネットの情報でスピーカーの良し悪しを判断するのは、ベテランにとっても難しいことです。オーディオを趣味にするつもりなら、ちょっと足を伸ばして、いろいろなショップでいろいろなスピーカーを見聴きしましょう。「オーディオショップ」というキーワードで検索すれば、いくらでも見つかります。

 スピーカーがぎっしりと積み重ねられているようなショップで切り替えて試聴すると、購入後に自分の家で聴くのとはかけ離れた条件になってしまい、派手なスピーカーが良く思えてしまうものです。普通の家電品売り場よりは静かでしょうが、周りの騒音も多少はあるので、大人しい音のスピーカーには不利です。そこで、片方のスピーカーだけを聴いてみてください。スピーカーの背丈の2倍くらい、だいたい1メートル前後の距離で真正面に顔を向けて聴くと、スピーカーの性格が分かりやすいと思います。本来のリスニング位置より近すぎるため、アンバランスな音になりがちですが、その状態で感じた癖は、もし購入して聴き込んだら気になるものです。そうやって、片方づつ両方を聴きましょう。ステレオなので、左右で楽器の配分が異なるからです。また、音が大きいほうが良く聴こえる傾向があるので、できればスピーカーを切り替える毎にこまめにボリュームを調整してもらうか、許可を得て自分で調整し、聴く位置での音量を合わせてください。お気に入りのCDや音楽ファイルなどを、ぜひ持参して再生してもらいましょう。ほとんどのショップは喜んでかけてくれるはずです。「アンプとプレーヤーはどれにしますか?」と聞かれ、意中の製品がなければ、「ベストセラー機にしてください」でいいと思います。試聴には中庸が一番です。

メーカー製の新品を普通に買うばあいの例(B&W CM1S2とELAC BS192)
メーカー製の新品を普通に買うばあいの例(B&W CM1S2とELAC BS192)

  わたしはこれまでに、2本で数百円から1千万円超まで、また、平凡な四角いスピーカーから岡本太郎のオブジェのようなものまで、バラエティー豊かなスピーカーをたくさん聴いた経験があります。この記事を書くにあたって、秋葉原でショップ巡っての試聴もして来ました。しかし、肝心の聴きたい音が薄いくせに、耳障りな余分な音を出すスピーカーが多いように感じられてしかたありません。新製品が出るたび「白さがちがう」のにいまだ汚れが残る洗剤のように、「革新的な進歩」を繰り返して歪みが減ったはずの最新スピーカーも、けっして無色透明な音ではありません。それどころか、明らかに売るための色付けがしてあって、評判の良いスピーカーなのに気に入らないことが多々あります。自分の耳で判断して、気に入る音色のスピーカーを選びましょう。

 音色である程度候補が絞れたら、つぎは大きさとグレードです。予算や設置スペースに余裕があるばあい、高いグレードの大きな製品(モデル)を買えばいいのですが、最近のスピーカーは箱にコストがかかるせいか、ちょっと大きくなるだけで極端に価格が高くなる傾向があります。小さなモデルと一つ上の大きなモデルを比較すると、明らかに低音が豊かになるので、価格的に無理でも上のが欲しくなってしまうものです。しかし、製品ラインナップの同一シリーズなら音色は似た傾向ですし、入門ということでもあるので、安い方を買ってはいかがでしょうか。小さなスピーカーには音のまとまりが良いというメリットもあります。ちょっと大きなくらいでは、どうせ生のオーケストラを彷彿とさせるような低音は出ません。大きなモデルとの差額で高性能なサブウーファーを買うという手もあります。音量が小さくなると、人間の聴覚は低音に対して極端に鈍感になるので、常識的な音量で聴くとき、サブウーファーで低音のバランスをとることは合理的です。

 なるべく多くのショップで聴かせてもらい、気に入ったスピーカーがあってもすぐには買わず、日にちをかけて落ち着いて考えましょう。やはり入門にはメーカー製の新品が無難ですから、現行製品から気に入ったスピーカーがみつかればラッキーです。ショップで買えば使い方のアドバイスがもらえますが、ケーブルを売りたがるかもしれません。あわてて高いケーブルを買わずに、まずは一番安い電線でスタートしましょう。ショップで機種を決めて、ネットで安いところを探して買うのも賢い選択です。

 残念ながら、ショップで条件に合うスピーカーが見つからなかったらどうしましょうか?次回はそのばあいのお話です。

【用語解説】


※「ピックアップカートリッジ」「カートリッジ」: 音の波形を刻んだアナログレコードの溝のうねりを針先でトレースし、電気信号にする変換器。小さくて交換式になっているものが多いことから「カートリッジ」とされる。アナログレーコードの祖先はエジソンが発明した「フォノグラフ(Phonograph)」なので、「フォノカートリッジ」ともいうが、略して単に「カートリッジ」とされることが多い。

※「ウーファー」:低音用のスピーカーユニット。ほとんどは浅い円錐形をした紙やプラスチックなどの振動板をもち、数十ヘルツから数百、あるいは数キロヘルツまでの周波数を再生する。ちなみに高温用のスピーカーユニットは「ツィーター」。

※「サブウ-ファー」: 低いもので100 Hz、高いもので300 Hzくらいよりも低い周波数だけを再生し、低音を補強するための補助スピーカー。人間の聴覚は低い周波数で方向感覚が鈍いので、1台だけでもステレオ再生に対応することができる。

運営者情報・お問い合わせ

有限会社キャリコ 〒399-4117 長野県駒ヶ根市赤穂497-634 TEL 0265-81-5707 道具商
長野県公安委員会許可第481250500003号

オーディオの歴史とクラングフィルム

クラングフィルムの歴史・スピーカー・アンプ ⇒
・レコードの始まりから書く オーディオの歴史 ⇒

KLANGFILM History (English) ⇒

DSDのダウンロード販売

 新忠篤氏の復刻によるDSD音楽ファイル「ダイレクト・トランスファー」のダウンロード販売を開始しました。最近は「ハイレゾ」という用語が流行りですが、広がりや艶やかさといった表面的な快感を求める方向に流れているように思われます。それとは正反対の圧倒的な実在感のある歴史的録音を、なるべく多くの人に聴いていただこうと、サーバーなどを間借りしてコストを抑え、さらに販売元のグッディーズさんに原価低減をお願いして1000円(税別)という低価格にしました。 ダウンロードサイト ⇒