【入門1】いま更ながら「オーディオ入門」ですか?

 DSD音楽ファイルの再生方法はこちら⇒ になりますが、よろしければ、この記事も読んでみてください。

2015年7月(2016年12月改訂) 小林 正信

 わたしがオーディオに入門した1970年代は、73年のオイルショックにもめげずオーディオが熱かった時代です。小学6年でカセットデンスケタイプIIIという、当時としては高級なSONY製のカセットテープ録音・再生機を買ってもらったのが最初です。そのころは生録ブームで、録音機を担いで出かけ、マイク片手にカエルの声や蒸気機関車の音を録音するといった、いまでは信じられないことを日本中の愛好家がやっていました。そのころ自分の学校に取材でやって来たNHKの人が、スイスはナグラ社のオープンリールテープ録音機を担いでいました。自分のカセットデンススケとは別次元の精密さに見とれてしまい、プロ機に憧れるようになりました。

NAGRA IV-SJ (NHKの取材者が使っていたのはモノラルのNAGRA IV)
NAGRA IV-SJ (NHKの取材者が使っていたのはモノラルのNAGRA IV)

 毎日カエルやセミの声を聴いていてはつまらないので、家にあった玩具レベルのアナログレコードプレーヤーを分解し、スピーカーへの配線から信号を取り出してカセットデンスケにつなぎ、レコードを聴けるようにしました。しばらくして、近所に粗大ごみとして放置してあったテレビに直径25 cmくらいの立派なスピーカーユニットが2個付いているのを発見し、さっそく取り外して即席の自作箱に入れ、カセットデンスケのイヤホン端子に接続して音が出るようにしました。古い応接セットのソファーを自分の部屋に持ち込んで2つのスピーカーを前にして深々と座り、「ついにコンポーネント・ステレオのオーナーになった」と満足感に浸っていましたが、まぬけなことに、レコードプレーヤーもイヤホン端子からの出力もモノラルだったのです。ターンテーブルが直径20 cmしかなくて安っぽかったので、コンクリートで30 cmの重量級ターンテーブルを作りました。紙製の型枠でコンクリートを固めるのに良い平面が必要だったので、漆塗りの床の間を使ってアルカリで変色させてしまうなど、迷惑をかけつつも大いに楽しみました。

 この時代に、わたしのような図画工作の延長や、「コンポが立った」とかいって派手に宣伝していたコンポーネントステレオなどで本格的なオーディオに入門した人たちの生き残りが、いま現在のオーディオ愛好家の中心です。その後、オーディオ界は何十年も沈滞していたため、日本のオーディオ愛好家はすっかり高齢化してしまいましたが、最近のハイレゾブームのおかげで過去の繁栄が少しだけ戻ってきたような気がします。そこで、ひと昔前のホームシアターブームのとき、ある程度の人たちがシアター用の装置を卒業して本格的なオーディオ愛好家の仲間になってくれたように、最近の手軽なデジタルオーディオで良い音に目覚めた人たちも仲間になってくれればと思い、この「オーディオ入門」を書くことにしました。それが、このタイミングで「いまさら入門」の理由です。「あまり機械にのめり込みたくないけれど、もっといい音で音楽を楽しみたい」という人にも参考になるように、なるべく分かりやすく書こうと思います。

だいぶ前に筆者が自作したアナログプレーヤー
だいぶ前に筆者が自作したアナログプレーヤー

 1970年代はまた、芥川賞作家でオーディオの大家だったの五味康祐や、日本におけるオーディオ評論家の草分けだった池田圭をはじめ、浅野勇、瀬川冬樹といった偉い先生や魅力的な先生が誌面などで活躍していて、オーディオ愛好家にとって目指す道が見つけやすい時代でした。ところが、1980年代以降はCDの登場によるデジタル化の反動もあってか、懐古趣味が強くなりすぎたり、観念的になりすぎたりして、オーディオの道が迷路になってしまいました。昔はカセットデンスケからナグラのプロ用機器までが一筋につながっていたのが、今ではDAコンバータ基板など安価で高性能なデジテル機器で楽しむ世界と、高級ブランドの高価なオーディオの世界に分裂していて、お互いを否定しているかのようです。数千円のDAコンバータ基板で良い音が出ていると思っている人たちからは、何百万円もするハイエンドオーディオ機器のオーナーが中身の無いものに大金を払った大まぬけに見えています。

 わたしはカメラや自動車も大好きですが、そちらの世界はオーディオほどは分裂していないように思えます。軽自動車に乗っている人でも、車好きなら高級車を買うことに憧れると思います。オーディオもそうあってほしいものです。そこで、これから始めるオーディオでも、昔のように手軽なところからスタートして、少しずつグレードアップしながら無理なく、あるいはちょっとだけ無理をして大いに楽しむことが出来るということをお伝えしたいと考えました。

【用語解説】


※「カセットテープ」: 長辺が10 cmのプラスチックケースに磁気テープを収納し、手軽に録音・再生できるようにした記録メディア。

※「オープンリールテープ」: むき出しの円形巻き型(リール)に「カセットテープ」よりも幅の広い磁気テープを巻いた音声記録メディアで、操作が面倒で高コストだが音質が優れるため、主にプロ用に使われた。

※「ステレオ」: 「立体」や「立体的で固い物」を表すギリシャ語に由来し、複数のスピーカーによって再生される立体的な音や、その再生装置を意味する。しかし、現状では3次元的な立体ではなく、2個のスピーカーの間で左右に直線的に広がる1次元的な音をステレオとする傾向にある。「固定観念による類型化」を意味する「ステレオタイプ」の「ステレオ」も同じギリシャ語に由来し、「立体的で固い物」から、「固まった思考や概念」という意味に発展したもの。

※「モノラル」: 「モノーラル」としてもよい。「ステレオ」の対義語で、1個のスピーカーによるゼロ次元的な音、およびその再生装置を表すが、1次元のステレオが3次元的とされるように、ゼロ次元のモノラルでも2次元的な(ときに3次元的な)広がりを感じさせることができる。

※「コンポーネント」「コンポ」: アンプ(増幅器)やスピーカーなどが別々になっていて、組み合わせを変更できる装置を構成する、アンプなどの個々の機器が「コンポーネント」。その「コンポーネント」を組み合わせたステレオ再生装置が「コンポーネントステレオ」、略して「コンポ」である。

※「ターンテーブル」: アナログ式の円盤レコードを乗せて回転する円盤状のもの。「プラッター」とも呼ばれる。

※「DAコンバーター」: デジタル化された音声信号データを、人間が聴くことのできるアナログ信号に変換する装置、または変換する集積回路チップのこと。DACと略されることも多い。

※「ハイエンド」: 比較的新しい製造のオーディオ機器で、およそ一台で百万円以上のもの、およびそれらの機器を組み合わせた再生装置のこと。高額であっても、ヴィンテージとされる古い機器はハイエンドに含まれないばあいが多い。「中身に見合わない不当に高額なオーディオ機器」という解釈も若者を中心に浸透している。

運営者情報・お問い合わせ

有限会社キャリコ 〒399-4117 長野県駒ヶ根市赤穂497-634 TEL 0265-81-5707 道具商
長野県公安委員会許可第481250500003号

オーディオの歴史とクラングフィルム

クラングフィルムの歴史・スピーカー・アンプ ⇒
・レコードの始まりから書く オーディオの歴史 ⇒

KLANGFILM History (English) ⇒

DSDのダウンロード販売

 新忠篤氏の復刻によるDSD音楽ファイル「ダイレクト・トランスファー」のダウンロード販売を開始しました。最近は「ハイレゾ」という用語が流行りですが、広がりや艶やかさといった表面的な快感を求める方向に流れているように思われます。それとは正反対の圧倒的な実在感のある歴史的録音を、なるべく多くの人に聴いていただこうと、サーバーなどを間借りしてコストを抑え、さらに販売元のグッディーズさんに原価低減をお願いして1000円(税別)という低価格にしました。 ダウンロードサイト ⇒