【その1】音海先生のリスニングルームへの来訪者

(さんひまじんオーディオもんどう    たこうや きくたろう)

左下:猛実験君、中上:音海先生(おんかいせんせい)、右下:スペック紳士
左下:猛実験君、中上:音海先生(おんかいせんせい)、右下:スペック紳士

 音海先生(おんかいせんせい)は音楽が大好き、また、音楽を再生するオーディオ装置について論ずることが大好きである。そして、ひとたびオーディオの議論をはじめると、たちまち精神はたかぶり、アイデアがしきりに湧きおこり、古今東西のオーディオ機器から音楽再生の哲学にまで、独自の論理を展開して留まるところを知らないのである。あるとき、評判を聞き知った二人のオーディオ愛好家が、音海先生のリスニングルームにオーディオの奇論を聞こうとやって来た。

 ひとりは着物、はきもの、上から下までみな一流で、ちょっと猿ズラだが上品な面持ちの、言語明晰な紳士であった。「この人はきっと広いリスニングルームで高級なオーディオ装置を整え、最高のスペックで理想的な音を求め続けているにちがいない。」そう見通した音海先生は、この客人のことを「スペック紳士」と呼んだ。

 もうひとりは、ついさっきまで半田付けをしていたかのようなラフな姿で、体はイノシシのようにがっしりとし、手には何やら自分で加工したらしいケーブルを持っていた。「この人はきっと、とっかえひっかえ部品を交換しては聴き、自分の耳で実体験したことしか信用しない人にちがいない。」そう見通した音海先生は、この客人のことを「猛実験君」と呼んだ。

 音海先生のリスニングルームは広く、天井は身の丈の二倍はあろうかという高さで、四方の壁は棚になっていた。その棚にはおびただしい数のレコードやらアンプやらのたぐいが雑然と積まれ、床にもスピーカーやらなにやら判らない物がいくつも置かれていたので、思いのほかくつろげるスペースは少なかった。客人たちが差し出したみやげ物を音海先生が受け取り、ひととおりのあいさつを終えると、三人はリスニングルームの中ほどの空いている床に座った。音海先生はあいさつで紹介された名前を覚えようともせず、物珍しそうに周囲の品々を見回している客人たちに、勝手に付けた呼び名を使って親しそうに話しかけた。また、客人たちもそんなことは気にも留めず、上機嫌で答えた。

 スペック紳士は知識が広く、国内、海外を問わず現代のハイエンド・オーディオから往年の名器まで、知らない機種は無いくらいで、だれのリスニングルームを訪問しても、主人に代わって装置の解説をやってしまうほどである。だだし、自分で何かを作ることはせず、したがって、自作の装置は苦手で、ケースのカバーが開いていて中から配線が出ていたり、部品が外にはみ出したりしているのは大きらいだ。それで、はじめは音海先生のリスニングルームにある残がいのような古い機械や多量の部品群に少し気遅れしていたが、床に置かれたスピーカーや棚のアンプのなかに、その昔の劇場で使われたプロ用の名機を見つけては、したり顔で「それは○○ですね。△△なのを知っています。」などとやるのであった。

 猛実験君はスピーカー・ユニットや LP レコードのピックアップ・カートリッジなど、自分では作れない部品のたぐいを除いて、メーカー製品や往年の名器には興味が無く、だれのリスニングルームを訪問しても、とにかく音を聴いてはいろいろと批評し、「ここの部品は交換したほうがいい」などと、いらぬおせっかいを焼いてしまう癖がある。音海先生のリスニングルームでも、棚にあった見たこともないスピーカー・ユニットや部品群の品定めには余念が無かったが、床にある大型スピーカーをはじめとする、貴重な製品群にはさほど興味を示さなかった。そして、さっぱり音を聴かせてくれる気配がなく、どうでもいいオーディオの世間話を楽しそうに続ける音海先生にじれったくなって、しきりに持参したケーブルをいじっていた。

 その様子を見てとった音海先生が、おもむろに切り出した。

音海先生:「ところで、猛実験君はなにを持っておるのかね。ケーブルのように見えるが、なにやら手作りのようじゃな。」

 まってましたとばかりの表情で、猛実験君はケーブルを誇らしげに持ち上げると、猪突猛進の演説を始めた。

(次回につづく。。。)

【※おことわり】 このお話はフィクションであり、登場する人物やブランド名などは、実在のものとは一切関係ありません。また、このお話を参考にした結果、音質が悪くなったり無駄な買い物をしたりといった損害が生じても、責任は一切負えません。あなたの大切なオーディオ装置を守るため、インターネット上の情報は鵜呑みにせず、十分注意して取捨選択しましょう。

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