試作第2号機は、以下の2項目を実施するため、短期間で制作でき、かつ実験と改良が気軽にできる手配線で制作しました。
・第1号機のDSDパッシブ変換時のノイズを減らし、音質を追求する。
・実用的な構成にして、実際に日々使用しながら性能と可能性を見極める。
USB入力のデジタル信号処理基板には、試作1号機とは異なる Amanero Combo384 を採用しました。回路は以下のように構成されています。なお、実際には Combo384 からデジタルセレクターを介してDACチップ PCM1794 も接続されています。USB入力がDoPならパッシブフィルター回路が、PCMならチップによるDAC回路がリレーによって自動的に接続されます。
USB → [Combo384] → [光絶縁] → [OPアンプ] → [CRフィルター] → セレクタ−へ
アナログ入力 → [AUXセレクター] → [ECC81差動増幅] → セレクターへ
[セレクター] → [バランサー] → [アッテネーター] → [ECC99 差動増幅] → OUT
すべての回路はバランス構成(プッシュプル)なので、左右チャンネルのバランスは2連ボリューム2個で、マスターボリュームは4連のロータリースイッチと抵抗で自作しました。ツマミは左端からAUX入力セレクタ、AUXゲイン(ECC81の負帰還増減)、左バランサー、右バランサー、マスターボリュームです。電源はアナログ回路用が内臓で、デジタル用が外部です。
左端がDSDパッシブ変換回路、中央が真空管プリアンプ回路、右手前が4連アッテネーター、右隣がデジタル用電源
肝心のパッシブフィルターによるDSD再生は、下記の録音などですばらしい音を出すことに成功しました。パルス列信号の低周波部分をそのまま聴くことになるので、デジタル信号をアナログ信号として扱い、波形を整えて質の高い増幅をしてからフィルターを通すことが必要でした。ローパスフィルターは、やはり抵抗とコンデンサによるオクターブ当たり -6 dB という構成ですが、その後の真空管回路もフィルターとして働き、トータルでカットオフ約30 kHz、-18 dB / oct 程度になっています。
輝くチェンバロ YOKO ISHIKAWA ~ 第9回生録会 at 松本記念音楽迎賓館 DSF 5.6M
DSDファイルはWindowsパソコンにインストールしたfoobar2000で再生しました。アンプにはEL34シングルアンプ、スピーカーにはコンスキ&クリューガーのKL51を使いました(もっと世間と互換性のある装置が必要ですね)。最近のUSB DACによくある軽くて派手な音ではなく、かといってデジタル臭を無理に消した重量級DACのような粘っこい音でもなく、とても好ましい印象でした。
後からの写真で、DACから出力まで全段バランス構成(プッシュプル)になっている
では、PCMもfoobar2000でDSDに変換しながら再生すれば、このパッシブDACでICチップを使わずに自然な音ですべてのデジタルソースを楽しめるのでしょうか? 残念ながら否です。実際には元々DSDとして作成された音楽ファイル以外のほとんどから、レベルやトーンの安定しないノイズが出てしまいました。言い換えれば、PCMをDSDに変換したファイルはノイズが出るということです。とても小さな音ですが、やはり気になってしまいます。
ケース底面に収められたデジタル回路で、すべて手配線。PCM1974も内蔵している
新忠篤さんがプロデュースしているDSDによる復刻「ダイレクト・トランスファー」は、初めからDSDとして録音されています。一般に行われている、PCMに一旦変換して編集し、またDSDに戻すことはしていません。したがって、元々DSDとして作成され、PCM→DSD変換をしていないので、ほとんどノイズが出ず、十分に楽しめます。
上記チェンバロ以外のe-onkyoで販売されているDSDファイルの多くはノイズが出るので、高分解なPCMで編集を行ったファイルをDSDに変換したものではないかと推測されます(執筆時点での情報)。別途搭載してるPCM1974による再生では、PCMも水準以上の音で再生できるので、当面はこの試作機でたっぷりと聴きながら、「現時点で自分にとって最良のDACとは」と考えてみることにします。
2015年5月、2016年3月